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第324話 蓮
夕方、田上さんから電話がかかってきた、
「蓮、タクシーで帝都ホテルまで行けるか?夕飯はそこで食べよう、7時にロビーで待っているから」
そう言われた、なんで帝都ホテルなんだろう?
一応、きちんとした格好をしようと、クローゼットを見てみる。そこにかけてある小さい方のサイズは多分俺のスーツだ、田上さんには小さい。
着てみようと思ったけれど、ネクタイの結び方がよく分からない。
仕方なくチノパンにシャツにセーターという格好で出かけることにした、ゆっくりなら松葉づえなしで歩ける、杖はまだ持っているが歩くのもそう不便ではない。
これまさか、デートなのかな、そう思っただけで心臓がぎゅぎゅっとなる。
ホテルに着くと入り口に田上さんが立っていた。ドアに近づくと、寄ってきてすっとエスコートしてくれる。いや、俺の脚がまだ治ってないからだけで、エスコートじゃないのかな。
「前のレストランを予約してある」と言われたけれど、前っていつのことだろう。連れて行かれたのは夜景の綺麗な洒落た店。
「田上さん、すごい綺麗ですよ。見てください!」
嬉しくなってそう話しかけると、田上さんはお腹を押さえて笑うのを堪えている。
……え?えっと何かしたのかな。
「蓮、もうお前可愛すぎる」
きょとんとする俺の頭をくしゃくしゃとされた。運ばれてきたサラダの野菜を見ると田上さんがひとこと。
「ああ、そうだ。これはチコリって名前の野菜だからな」
そう、教えてくれた。なぜいきなり野菜の名前なんだろう、けれど知らない野菜。なぜ俺がこの野菜の名前を知らないと思ったのかな。
「可愛い名前ですね」
そう答えると……まただ。田上さんの肩が震えてる。何がそんなにおかしいのか。まあ、楽しそうだから良いけれど。
「お前って常に正直なのな、いつも嘘がない。だからいつも同じ答えだ」
そう言って嬉しそうに微笑んだ。
「蓮、この後どうしたい?」
どうしたいと言われても困る、なぜならその選択肢がわからない。
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