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第325話 匠

 おどおどしている上原が可愛い、ああ駄目だまた苛めたくなる。  「蓮がしたいようにしよう」  実際はホテルの部屋は取ってあるし、帰すつもりもない。上原に選択権なんてない。この状況で素直に帰すわけがない。  「あの……したいようにって、それどういう……意味でしょうか」  「ん?じゃあどうするのかは部屋で決めよう」  そう言ってテーブルの上にあった上原の手を握る。びっくりした上原が慌てて手を引っ込めた。  「誰も見ていないよ」 そう言うと不安そうな顔をして、俺を見る。  「田上さん……その部屋って……」  「え、帰るのか?困ったな」  「いえ、あの、帰るのではなくて、あの……」  「帰らないなら泊まるんだよね?」  「あ、えっ、え?ええ……え?」  「そう、良かったよ。俺は置いて行かれたらどうしようかと思っていたよ」  メインディッシュが運ばれてくると、無口になった上原が一生懸命食事を飲み込もうとしている。  緊張して味もしないんだろうなと思う、それでつい余計なことを言いたくなる。  「デザートはいつものように俺の分まで蓮の担当な」  一瞬、上原は困ったような顔をした。  「あの、今日はお腹がいっぱいで」  解っていて、言ってるとしたら上原は怒るかな。でもいちいち反応が可愛くて仕方ないんだ。  「そう?じゃあ遠慮せず食後のコースへ進ませてもらおうかな」  そう言って立ち上がると、つられて上原が立ち上がった。

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