325 / 336
第325話 匠
おどおどしている上原が可愛い、ああ駄目だまた苛めたくなる。
「蓮がしたいようにしよう」
実際はホテルの部屋は取ってあるし、帰すつもりもない。上原に選択権なんてない。この状況で素直に帰すわけがない。
「あの……したいようにって、それどういう……意味でしょうか」
「ん?じゃあどうするのかは部屋で決めよう」
そう言ってテーブルの上にあった上原の手を握る。びっくりした上原が慌てて手を引っ込めた。
「誰も見ていないよ」
そう言うと不安そうな顔をして、俺を見る。
「田上さん……その部屋って……」
「え、帰るのか?困ったな」
「いえ、あの、帰るのではなくて、あの……」
「帰らないなら泊まるんだよね?」
「あ、えっ、え?ええ……え?」
「そう、良かったよ。俺は置いて行かれたらどうしようかと思っていたよ」
メインディッシュが運ばれてくると、無口になった上原が一生懸命食事を飲み込もうとしている。
緊張して味もしないんだろうなと思う、それでつい余計なことを言いたくなる。
「デザートはいつものように俺の分まで蓮の担当な」
一瞬、上原は困ったような顔をした。
「あの、今日はお腹がいっぱいで」
解っていて、言ってるとしたら上原は怒るかな。でもいちいち反応が可愛くて仕方ないんだ。
「そう?じゃあ遠慮せず食後のコースへ進ませてもらおうかな」
そう言って立ち上がると、つられて上原が立ち上がった。
ともだちにシェアしよう!