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第327話 匠

 服のボタンを一つ外してやる。上原は凍りついたように動けない。本当に怖がらせて泣かせたいわけじゃない。  違う意味ならなかせてもいいが。  ベッドに押し倒されて逃げないだけでもう十分に覚悟はできていると思うが、この後に及んで躊躇するのはなぜだろうか。  俺はどんなことがあっても裏切らないし、上原が嫌だと言う事は多分、しない。そう解っているはずなのに。  「襲われてるような顔は止めて、いじめているみたいだ」  上原の縋るような目が煽ってくる。どうすれば、素直に甘えてくれる?  「蓮、手はこっち」  手を取って俺の首に回すと「えっ?」と、驚いたような顔をする。  それでもなされるがまま。ゆっくりと口づけると、「ん…っ」と声が出る。これで駄目なんてないだろうとは思う。けれど、どうしても俺が押し切ったと言う形だけは避けたい。上原に選ばせなければ意味がないんだ。  「怖くてやめたくなったら押し退けろよ」  シャツのボタンを外しきって、チノパンのジッパーに手をかけたところで、上原が俺の手を押さえた。  「田上さん、やっぱり……止めて下さい」  約束は守る。  今までで止めてくれと手を止められたのは初めてだ。上原の横に自分の身体を落として並ぶ、仕方ない。  「朝まで、抱きしめてても良いか?それなら怖くないだろう」  そう言って腕の中に囲い込む。上原は安心した顔をして、頭を俺の胸に預けてきた。これで明日の朝まで、俺は眠れないだろう。

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