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第328話 蓮
田上さんに申し訳ないとは思う。
自分が本当は田上さんとどういう関係だったのか、どうしてそうなったのか、肝心なことを何も覚えていないことが怖い。ただ、今ある気持ちは本物だ。それでも自分だけが真実を知らないのが怖いだけ。
怖いと思いつつもこの腕の中は安心する。きゅっと強く抱きしめられると、軽く酸欠になるような感覚がある。
……あ、何だろう、くらくらする。
「辛い……ですか?」
くっついた身体に硬くなっている田上さん自身が当たっている。そっと手を当てる。
「あ、生理現象だから気にするな。好きなやつと同じベッドに居て反応しないほど枯れちゃいない」
田上さんはそう言うと頭を優しく撫でる。怖くない。本気で俺のことを求めてくれている。もう一度手を伸ばす。
「俺をどうしたいの、蓮?」
「どう……すれば良いでしょうか?」
田上さんが、ふーっと深く息を吐く。少し微笑むと俺の手を取った。
「ごめん嫌じゃなきゃ、蓮の手、貸してくれる?」
田上さんの息が上がり始めると、最初は俺の頭を押さえていたはずの手はいつの間にか背中に回り、つつッと背骨を辿った。
ざわざわと身体中が粟立つ。
「蓮、お前も反応してるよ」
指摘されなくてもわかっている。今朝、田上さんに触られた時、身体の奥が疼いていた。そこを中心として熱が広がる。
「んっ……あの、田上さん?……あの、き、キスして欲しいです」
小さい声で言う。恥ずかしさで、消えたくなってしまう。
「蓮、俺は一度止めたのに、誘ったのはお前だがらな?」
そう言うとぐっと口付けられた。溶けそうになるほど熱い口付けに身体の力が抜けた。
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