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第329話 匠

 上原が俺の下半身にそっと手を伸ばしてきた。それだけでも驚きなのにキスを強請ってくれるとは思わなかった。  俺は一度止めたんだ、これは合意としか取りようがない。  いや、合意というより誘ったのは上原のほうだ。不安が肌から伝わってくる、そんなものは時間をかけて溶かしてやる。全てをさらけ出せるほど乱れさせれば良いだけだ。髪、額、瞼へとリップ音を立てながら柔らかい口付けを落とす。  ぴくりと、上原が反応する。あ、この表情、久々に見た上原の溶けそうな顔に優しくしたいと思っている俺自身に、泣かせたい、虐めたいだろう?と悪魔が声をかけてくる。  肩口に軽く吸いついた時に「んっ」とくぐもった声が聞こえた。ああ、無理だ優しくなんて出来ない。俺を欲しがれ上原。こいつは、俺のものだと強く吸い上げ痕を残す。  「田上さん……」  「匠だよ、お前は匠って呼んでたんだよ、蓮」  「あ、……たく…み…さん」  久々に上原にそう呼ばれて、頭が沸騰する。  「もう一度、蓮。俺の名前を呼んでくれるか」  「匠さん……」  ふうっと、大きく息を吐く。まずい、これじゃあ歯止めもなにもきかない、勢いついてしまいそうだ。呼吸を整えて冷静を装う。  「どうした?蓮」  「匠さん、俺は……どうすれば……」  「何もしなくて良いから、俺に任せて力抜いてて任せてくれる?良い子だね、蓮」  そう言うと静かに上原は目を閉じた。

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