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第332話 蓮
どうしても声がおさえららない、そして自分が今どんな格好をしてるのかも考えたくない。ただ欲しかったのは、足りなかったのは田上さんだったという事だけはわかる。
「蓮、大丈夫か?」
そう聞かれてうなづく。何が良いのか、悪いのか分からないが、全て田上さんに委ねれば良いだけは真実。上からのしかかってくる重さが心地良い。目の前にある田上さんを見てなぜか胸を締め付けられる。
ぐっと身体が近くなる「ああっ」と小さく声が出た。
「息止めないで、蓮」
頭を優しく撫でられて力が抜ける、俺の身体のことをこの人は俺より知っている。正確なタイミングを見計い、田上さんが入ってくる。
言われたように浅く息を繰り返す。俺に体重をかけないようにと、支えている田上さんの手が小刻みに揺れている。
「蓮、蓮本当にお前のことが好きだ。この腕の中にどれだけ取り戻したかったか」
耳元で囁くように言われてぶるっと身体が震えた。たとえ何も覚えていなくてもこの人が必要だったのだ。この言葉の意味は俺が思っているより重いのだ。
あれ……俺、なぜ?どうして泣いているんだ。
目尻から伝わる雫を舐めて取られた。身体を揺らされながら満たされていく自分にようやく安心した。熱に浮かされて溶けていきたい。
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