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帰り道 《剣介》
帰るのも一緒だ。
「おつかれー、柳くん」
「おう、おめぇもな」
「今日も汗いっぱいかいたねぇ?」
「汗くせぇだろ」
「うん、まぁねぇ」
「わりぃな」
柔道は全身を使う。
鍛えて代謝もよくなってるから尚のこと汗だくになるわけだ。
こればっかりはしゃあない。
「ううん、嫌な匂いじゃないし」
「……ったく」
呑気に笑う早苗の頭を撫でる。
どうしようもなく可愛い奴。
「風邪ひかないでよね」
「わぁってるよ。送ってくからちと家よるぞ」
「はーい。柳くんのお家好きだよ」
「ただのぼろっちいアパートだろーが」
「でも好き。居心地いいし、しゅんくんもあおくんも可愛いしねぇ」
隼介(しゅんすけ)と碧(あおい)は俺の弟たち。
中2と小5のやんちゃ坊主共だ。
「ほんと物好きだよなおめぇは」
「柳くんもね?」
「はぁ?」
「ふふ、僕のこと好きでしょう?」
呑気に呑気に笑う早苗。
その言葉に深い意味はない事くらい知ってる。
けど、自分のこの気持ちに気付いているのかと心拍が少し速くなった。
「嫌いな奴とはつるまねぇけど……」
「でしょ。僕ってほら、人に合わせるの苦手だからけっこー嫌われるんだ。だから柳くんも物好き」
こっちを見る顔は微笑んでいた。
「おめぇは……」
「わっ!」
返す言葉が見つからず、早苗の髪をくしゃくしゃに撫でてやった。
バカな奴。
お前を嫌う奴なんて、お前のいいとこに目が向かねぇアホなんだよ。
早苗が周りから浮いているのは昔から知ってる。
ちょっと空気が読めなくて、いつでもマイペースで、それでいて勉強なんかはさらっとこなす。
人と違うから、それだけで除け者にされる。
全然早苗は悪くねぇんだ、お前はそのままでいていいんだ。
「ちょっと柳くん、ぐしゃぐしゃにしないでよー」
「うっせぇ」
当の本人は気にする素振りも見せないが、言葉にならない気持ちが俺の中で膨れていく。
「もー、柳くんったらもぅ」
俺に遅れないように歩きながら髪を直す早苗。
「誰が嫌おうが、俺はおめぇのこと好きだ」
その好きに友達としてじゃない意味もあるのは、まだ黙っておく。
一生打ち明けらんなくても、それでも、俺はきっとずっと早苗が好きだ。
「僕も、柳くんのこと大好きだよ」
呑気に早苗は笑った。
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