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消えればいい 《剣介》

早苗の家に着いた。 「ありがとう、わざわざ送ってくれて」 「おう、じゃあまたな」 「うん! ハンバーグ頑張ってー」 二階建ての洋風な一軒家。 うちがアパートだからか、早苗の家はいつ見てもでかいと思う。 家の中に入っていくのを見送り踵を返す。 歩いている間ずっと、さっきの早苗の言葉を思い出していた。 一瞬、勘違いしそうになった。 危なかったけど今回も誤魔化せたよな? 小学生の時に惚れて、それから話すようになった中学も仲良くなった今も、ずっと隠してきた。 早苗は、時々というか結構際どいこと言うから、今までもつい本音をもらしそうになっていた。 『好き』と言ってみたり、『僕のこと好きでしょ?』なんて悪戯っぽく笑ってみたり。 自分の気持ちを言いそうになったことは何度もある。 けどあいつがゲイなわけねぇのは知ってるし、嫌われない為には秘密にするのが一番だ。 せっかくこんなに近くにいれるんだ。 これ以上は望まない。 望んじゃいけねぇ。 「はぁ」 ため息をひとつ。 それから冷たい空気を吸い込み両手で両頬を一気に叩く。 じんとした痛みと衝撃で頭の中が真っ白になった。 そして、その感覚が残っているうちに走り出す。 胸を締め付ける切なさも、頭を占める欲望も全部全部消えてしまえばいい。 冷たい風を切り冬空の下を走る。 空からは真っ白な雪がしんしんと降り出していた。

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