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苦しい 《早苗》
家にいるのは寂しい。
「ただいまー」
リビングのドアを開けると、妹の小春がにやにやと笑いながら携帯に耳を傾けていた。
デレデレっていうのかな?
僕に気付くとさっきまでの笑顔は消えてきっと睨んで、手で出ていけと示す。
「はいはい」
小声で返し、リビングと隣接しているキッチンへ向かう。
お母さんがまだ帰ってきていないからご飯はまだだし、お菓子でもちょっとだけたべちゃおうかな。
キッチンにあるお菓子の棚を物色しようとしたとき、ふとシンクに無造作に置かれたカップが目に付いた。
ティーカップが2つ。
うちは両親とも働いていて家に帰るのも遅い。
そんなわけで中二のお年頃な小春は、放課後うちに友達や彼氏を連れて来る。
邪魔だからもっと遅く帰ってきてよ、と妹に面と向かって言われてから、今日のように柳くんの部活を見学させてもらっているというわけだ。
今日はカップが2つ。
ってことは彼氏さんだろうか?
「彼氏……恋人、か……」
リビングからは妹のはずんだ声が聞こえる。
電話の相手も彼氏さんだろう。
恋人ってどんな感じなんだろう?
恋の好きは友達の好きとどう違うんだろう?
柳くんにもこんな風に幸せそうに話す相手が、いるのかな……?
考えながら胸がちくりと痛むのがわかった。
可愛い女の子と仲良く話す柳くん。
想像してみると胸がざわざわして、すごく嫌だった。
なんだろうこの気持ち。
苦しいな……。
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