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榎本秋良 《剣介》

俺の朝は早い。 弁当を詰め、洗濯物をたたみ、弟たちを起こす。 自分の準備もろもろして飯をくって家を出た。 時刻は七時。 流石に日はでているが、寒い寒い。 昨日積もった雪を踏みしめながら、早苗のことをついつい考えてしまう。 『僕なら柳くんのこと彼氏にしてあげるのに』 あいつが肉食系、か。 早苗がガツガツ俺を……。 「ありだな……」 「何がありなの?」 「!?」 隣で声がして思わず体がはねる。 慌てて振り向くといつの間にそこにいたのか、俺の隣に女がいた。 榎本秋良(えのもと あきら)。 同じクラスだけど絡んだことはない。 小柄でちょこんと後ろで髪をくくっていて、印象としては元気で明るくてってそんな感じ。 「おはよっ、柳くん」 「お、おう」 俺に平然と話しかけられるあたり肝も据わってるんだろう。 「でっ、何がありなの?」 「な、なんでもねぇよ」 言えるわけねぇだろ、朝からいかがわしい妄想してたなんて。 けどさ、あんな可愛い顔してあんなことやこんなことをガツガツされたら、うん、たまんねぇだろ……。 「つーか、てめぇはなんなんだ。いきなり」 「てめぇじゃなくて、あ・き・ら! たまたま見かけたから話しかけただけ」 「変な奴」 「柳くんこそ、こんな時間から学校なんて意外と真面目だね~」 「朝練だっつーの」 「あー、そっか。バスケだっけ?」 「柔道だ」 「柔道!?」 「おう、柔道」 そこで榎本は足を止めた。 俺も足を止め榎本の方を見る。 「いきなりど」 「柳くん!! 好きなの私!!」 「はぁ!?」 朝の通学路で何やら興奮気味に手を握られた。 さらに突然好きなんて言われてしまった。 今朝は実に騒がしい。

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