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秋良ちゃん 《早苗》

朝の学校はちょっとだけ苦手。 登校する時間にはクラスの半分くらいが来ていて、そこそこ賑やかになっている。 柔道部の柳くんはHR前まで朝練だから、ひとりで時間を潰さなくちゃいけない。 って、柳くん……か。 昨日のことをいろいろ思い出して、悲しいんだかなんだか複雑な気持ちになった。 あーもう、なんかぐるぐるするし……勉強でもしよう。 一時間目の数学の予習をしようと教科書を開いた。 「おはよっ、かっしー」 「あ、お…はよう、榎本さん」 ふと榎本さんがあらわれた。 なんだろう、珍しいな。 「秋良でいいよ! もう水くさいなぁ」 「じゃあ秋良ちゃん……えっと、どうしたの?」 「んーと、特に用事はないんだけど。んふふー」 「ん?」 秋良ちゃんは意味深に笑ってみせる。 いったいどうしたんだろう? 「いやー、ほんとかっしーて可愛いよね」 「えぇ? そんなことないよ」 「そんなことあるよ! いやー、見てるだけでも癒やされる」 「ほんとにそんなことないって」 「あるのよ! 柳くんの鼻の下も伸びるわけよねぇ」 「柳くん?」 「うん、柳くん! かっしーといるときはいっつもデレデレしてるの、顔が」 「デレデレ、かぁ。よく見てるんだねぇ」 「まぁね!」 「柳くんのこと好き、なの?」 あんまり熱心に柳くんについて語るから、ついつい聞いてしまった。 だって、そんなに見てるってことは……そういうことだよね? ちょっとだけ、複雑な気持ちになる。 「いや、全然タイプじゃないから」 「え、そうなの?」 「うん、全く」 「そ、そっかぁ」 「でも興味はあるかな」 にこっと秋良ちゃんが微笑む。 「それってどういう……」 「ふふ、知りたい?」 僕が首を縦に振ろうとすると。 「おい、お前なにやってんだ」 上から機嫌の悪そうな低い声が降ってきた。 見上げるとそこには柳くんがいた。 「あちゃー、きちゃったかー。柳くんには秘密でーす! じゃね、かっしー!」 にこにこと秋良ちゃんが去っていった。 『興味はあるかな』 それって、どういうことなんだろう?

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