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構うな 《剣介》

階段を昇り、屋上へのドアがある踊場で二人。 寒い時期にこんなとこに来る奴は流石にいないようで、安心した。 ここなら誰かに話を聞かれることも無いだろう。 「おめぇ、あいつになに話した」 「おめぇじゃなくて秋良!」 「……榎本、早苗になに話してたんだ」 「ちょっと柳くんのこと話してただけだよ」 いたずらっぽく笑って、榎本は寒そうに手を擦り合わせる。 「俺のことって、まさか」 「柳くんがかっしーのこと好きなのは言ってないよ」 「そうか……」 「告白、しないの?」 告白。 榎本が発したその言葉が胸をざわつかせた。 「……しない」 告白なんてしちゃいけない。 言ったらもう、早苗の隣にはいれないだろう。 「しちゃえばいいのに!」 「友達のままでいい」 「意気地なしだなぁ」 意気地なし。 そんなんじゃない。 「あいつの側にいれりゃあいいんだ」 「ふーん」 榎本は不満げな顔で俺を見上げる。 告白して、もし付き合えたらと考えたことも無い訳じゃない。 恋人になれたら、あいつに好かれたらどんなに幸せだろうか。 もっと早苗に触れることが出来たなら……。 けど、あいつは普通に女が好きなわけで俺をそんな対象として考えたこともないだろう。 嫌われたらどうする? 優しいあいつのことだ、無理して一緒にいてくれるかもしれないが今のような関係には戻れなくなるはずだ。 「だからもう構わないでくれ」 「まぁ、そうするけど、端から見たらもう付き合ってますってかんじなのになぁ」 「はぁ? 友達だろーが」 「いやいや、常に二人一緒だしスキンシップも多いし。何より幸せオーラがハンパないよね」 「なっ……」 「正直もう、見てるこっちがもどかしい! 早く付き合っちゃえよ漢なら!」 「うるせぇ!」 ふくれっ面の榎本は子どものようで。 ほんとこいつは変なやつだ。 「とにかく、あんま関わんな」 「はいはい。けどさー、かっしー可愛いんだから早くしないと取られちゃうよ?」 「はぁ?」 恐ろしいことを言い、榎本はにっこりと微笑んだ。

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