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林宮涼香 《剣介》
もううんざりだ。
「それでね、もうその二人が可愛くって可愛くって!」
「なぁ……」
「とくにね、スズカくんがツンデレていうかデレデレっていうか」
「おい……」
「ツンツンしてるときはそこまで言うか! って思ってたんだけどね、龍太郎にデレデレしてるの見たらもう許せちゃうのよねぇ」
「……」
榎本は口を挟む隙も与えずまくし立てる。
よくわかんないが、ホモが好きになった原因?
龍太郎ってのは多分同じクラスの桜井だろうか。
もしそうなら、本人がいないとこで秘密を知ってしまうというかなり申し訳ない状態だ。
「でね、だからね! やっぱり告白してみない?!」
「……だからしねーよ。つーかさみぃし戻るべ」
「えー、柳くんは頑固だなぁ」
やっと長話から開放される。
携帯で時間を確認するともう10分近くたっていた。
真冬とまではいかないが冬だ、身体がすっかり冷え切ってしまった。
隣でまた話し出す榎本の声を聞き流しながら、階段を降りていった。
「あ、スズカくん!」
「あぁ、秋良か」
二階に着いたのと同時に一階から上ってきたらしいきれいな顔をした男子生徒に遭遇した。
榎本の呼んだ名前に聞き覚えがあると思ったら、例の桜井の相手の『スズカくん』のようだ。
ツンと澄ました表情で榎本をみると、隣にいる俺にも真っ直ぐと視線を向けてきた。
「お前、だれ?」
「ちょっともう、可愛いなぁ! この人は柳剣介くんだよ! で、柳くん、彼がスズカくん。林宮涼香くん」
林宮涼香(はやしみや すずか)。
顔はかなり綺麗だが、見た感じは、プライドが高そうな気難しい奴。
榎本の言う可愛いは、俺の思う可愛いと違うのかもしれない……。
「あぁ、龍太郎とよく話してる人か」
「そーそー、柳くんとかっしーを見てると付き合う前の龍太郎と涼香くんを思い出しちゃって」
「お前のその、人の秘密さらっと言ってしまうところもの凄く気に入らないんだが」
「もー、またそんなこと言って! 可愛いぜ、こんちくしょーめ」
「うるさい。お前も大変だな」
「お、おう」
言葉ではそう言っても哀れむような表情もしないまま、林宮が言う。
悪い奴では無いみたいだな、多分。
「龍太郎は教室か?」
「あ、そういえば呼び出してたの忘れてた!」
「道理であいつが戻ってこないわけだ」
「ごめんね、涼香くん。大切な二人の時間を邪魔しちゃって」
「別に……、俺は龍太郎を縛る気はないし」
「とかいいつつ会いに行くんだよね?」
「なっ、そ、それは、あいつがまた携帯忘れていったから届けに行くだけで、別にあいつに会いたいとかじゃ!」
「涼香くんは素直で可愛いなぁ」
「っ!」
へらへらと笑顔で林宮を見つめる秋良。
林宮は耳まで赤くしてそっぽを向いている。
確かに……うん、可愛いかもしれないな。
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