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テスト7 《剣介》

翌日、朝練も今日は休みで少し遅めに家を出る。 いつもと違う時間帯、歩いてる生徒が多くて居心地は悪かった。 「剣介、おはよう」 ふいに後ろから声をかけられ、隣に姿を現したのは柔道部の元部長、松谷一(まつや はじめ)さんだった。 「あ、一さん、ども」 「珍しいな剣介がこの時間帯って」 「今日、朝練なくなって」 「そういうことか。にしても久々に会ったな、俺が受かったら飯でも行こうな」 身長は俺と同じくらいか多少低いくらいで体格もそんなに変わらないが、彼にはなかなか勝てなかったのを覚えている。 今はもう引退していて、三年ということもあり大学受験のため勉強に明け暮れているらしい。 「いいっすね、早く受かってくださいよ」 「無茶いうなよ」 「松谷さん、おはよー」 苦笑する一さんに一人の男子生徒が駆け寄ってきた。 そいつをどこかで見たことがある気がするが、はっきりとは思い出せない。 華奢で眼鏡をしてて、筋肉なんかも程よくついている一さんのとなりだと、なんだか小さく感じた。 「カシマか、おはよう」 カシマ、カシマどこかで聞いたな。 「じゃあ剣介、テスト頑張れよ」 「ん、あ、はい。一さんも」 一さんとカシマは一緒に歩いていってしまった。 仲良さげに話しているのを見ながら、誰だろうかと考えた。 結局思い出せず、見つけたのは早苗の後ろ姿。 ぼーっとしているのか肩にかかっていたらしいマフラーの先が背中をぷらぷらしていた。 早苗はしっかりしてる方ではあるけど、どこか抜けていて、そこがいい。 「早苗」 近くまで行き声をかけると、早苗は振り向き少しびっくりしたようだった。 「あれ、柳くん。おはよ」 「おはよう。マフラー取れそうだぞ」 「え、あ、ありがとう」 直してやると恥ずかしげに微笑む。 「優しいね、柳くん」 躊躇いもなく褒めてくる。 素直に礼を言うのも恥ずかしくて、ぽんぽんと頭を撫でてやった。 どちらともなく歩きだし、昨日の今日で気まずい感じにならなくてよかったと安心した。 「そういやカシマって名前、聞いたことないか?」 「んー、美術部の子だっけ? たまに柔道部に来てたから、少し話したことあるよ樺島くんと。最近は見かけないけど」 「それで見たことあったのか」 合点がいって、すっきりするもなぜあの2人の組み合わせが成立したのかはなぞだった。 そのまま他愛もない話しながら二人で学校に向かった。 放課後。 掃除を終えて教室に戻ると、早苗と一緒に桜井と榎本がいた。 「柳くん、二人も一緒に勉強していい?」 早苗にそう聞かれ、だめと言うわけにもいかず、一緒に勉強する事になった。 みな帰って行く中、机を寄せてそれぞれにノートやら教科書を開く。 「やー、助かったよ。かっしー、数学得意で」 「得意ってわけでもないけど」 「またまたぁ、謙遜しちゃって。中間98点だったんでしょ?」 榎本に褒められ、早苗は少し照れていた。 「涼香ちゃん連れてきたよー」 桜井はというと隣のクラスの林宮を迎えに行って、手を繋いで教室に戻ってきた。 「なんでこいつらと……」 「2人きりだと勉強に集中できないじゃん」 「それはお前がちょっかい出してくるからで」 「あれぇ、顔赤いよ? 昨日の思い出しちゃった?」 「自意識過剰、というか人前でべらべら話すな!」 公然と桜井たちはいちゃついていて、若干イラつくような微笑ましいような。 早苗はというと榎本に数学を教えていて、こっちはこっちでもやもやする。 「おい。ここ座るぞ」 「ん……あぁ」 顔を赤らめたまま林宮が俺の隣に腰を下ろす。 「ねぇねぇ、涼香ちゃんってばー」 「いいから龍太郎もなにかやったらどうなんだ。この並び替え、こことここ逆じゃないか」 ちらりと俺が机の上に広げていた英語のプリントをみて林宮は言う。 「ん、あぁ。英語得意なのか?」 「涼香ちゃんはねぇ、なんでもできるもんね」 渋々、桜井も自分の席に腰を下ろす。 「俺は生物だけは得意だよ、ねー涼香ちゃん?」 「いちいち俺に話しかけるな。うるさい」 「涼香ちゃん、可愛いでしょ?」 2人の掛け合いを見ていると、桜井がそう聞いてくる。 「ん、あぁ、まぁ」 「おい、いい加減に黙って勉強しろ。お前も律儀に答えなくていいから」 「あは、照れてる涼香ちゃんかわいーの。俺もそろそろちゃんと勉強しようかなー」 「……おい、そこ範囲じゃないだろ龍太郎」 目元さえ鋭いが林宮はすっかり照れてしまっていて、顔が整っているのもあるが、まぁ確かに可愛らしい。 ただ、早苗とはちがうつんけんした態度は扱いが難しそうだなと、思う。 「ねぇねぇ」 ふと、早苗が隣に座る俺の服を引っ張った。 視線を向けると、一段落ついたのか榎本は榎本でプリントとにらめっこしていた。 「どうした?」 「日本史、ワーク見せて。丸つけしてないとこあって」 「珍しいな、何ページ?」 「52ページのここから。日本史って眠くなるから、たぶん寝てたかも」 そう言ってはにかむ早苗が可愛いと思った。 「なんかね、手あんまり動かさなくていいから眠くならない?」 「俺は日本史好きだからなー。ん、ここ字ふにゃふにゃだぞ」 「ほんとだ、何書こうとしてたんだろ?」 「あ、ここ落書きしてんじゃん」 「えへへ、ばれちゃった?」 何でもないような一面を知れたことが、素直に嬉しい。 微笑む早苗の表情が愛しい。 “テスト終わったらちゃんというから” ふとそのフレーズを思いだして、少しだけ怖くもなる。 この時間が壊れてしまわないだろうか。 「あ、これ柳くんだったり?」 「マジ、俺もみたーい!」 早苗の落書きは細長の顔に髪は短め、目が気持ちつり上がってて、確かに俺っぽいかもと思った。 その隣に犬っぽいような何かもかかれていて、それが何かまではいまいちわからない。 「うーん、確かに柳っぽいかも。これは? なんか可愛いけど」 「えっと……狼」 早苗は桜井や榎本の注目を集めて恥じらいつつ、俺を見ながら『狼』とつぶやいた。 「あおくんが、柳くんは狼で僕は羊みたいだって話してたことあって」 「確かに狼っぽいかもね!」 榎本は適当にそんなこと言って、にやにやと俺と早苗を見つめる。 狼。 そうだとしたら、こんなにもうまそうな羊を前に手を出せない、なんて臆病な狼だろう。 「かっしー、食べられないように気をつけなきゃね?」 「え! 大丈夫、優しい狼だもんね?」 冷やかしに含まれた意味を知ってるのか知ってないのか。 早苗は俺を見て、柔らかい表情で微笑む。 「じゃあ、お前は犬な。俺は飼い主」 「わー、涼香ちゃんご主人様? そういうプレイしたい?」 「はぁ?! そんなこといってないだろ!」 「え、なになにどんなプレイ?」 「秋良は黙ってろ!!」 2人きりで勉強するのもいいけれど、こうして他の奴らがいるのもくすぐったくていい。 「ね、柳くん、プレイってなに? 遊ぶの?」 「……おめぇも黙ってろ」 2人きりにはない、賑やかな感じ。 早苗は楽しめてるだろうか。 あまり勉強は進まなかったが、それでも充実感のある放課後になった。

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