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テスト8 《剣介》

時間は過ぎていき、とうとうテスト当日。 前日が火曜日と平日で、家に帰ってから焦って詰め込んだ教科もあるから多少眠い。 早苗や林宮に教えて貰ったから多少はいいだろうが、いつも赤点ギリギリで、マシなのは現文と日本史くらいだから安心はできない。 「ねぇねぇ、柳くん」 後ろの席の早苗が、ぽんぽんと俺の背中をたたく。 「どした」 「シャーペンの芯、ある? 0.5の」 「ん、あぁ、あるぞ……ほら」 「ありがとー!」 あの日から、早苗はいつも通り。 「家に置いて来ちゃったみたい、ありがと」 芯をいれ終わると早苗ははにかんで、それを渡してくる。 ちょっとだけ手が触れて、その頬がほんの少し色付くのがわかった。 たまに、時々こうしていつも通りでないこともある。 テストが終わったら……。 そう思うと、期待と不安とが混じった。 一日目のテストが終わった。 「英語、どうだった?」 昼過ぎには、早苗と一緒に帰路についた。 「まぁまぁ。一緒にやったとこでてたな」 「うんっ。現文も」 「そうだなー。お、肉まん割引してる」 コンビニの脇を通ると、『肉まん・中華まん全品割引』ののぼりが出ていた。 「柳くん、食べる?」 雪は降ってないが、今日は風が冷たい日だった。 「食べるか、肉まん」 「うん!」 昼飯前だけど、一個くらいならいいよな? 店内に入り、中華まんのケースの前に立つ。 肉まん、ピザまん、あんまんにチョコまん。 俺は、スタンダードに肉まんを買い、甘党の早苗はチョコまんを買った。 店を出て、行儀は悪いが、歩きながら肉まんを一口かじる。 寒い中だし、久々に食べたからかやけに旨く感じた。 隣では早苗もチョコまんを一口。 「おいひぃ」 「口にものいれたまましゃべんなって。もう口にチョコ付いてるぞ」 立ち止まった早苗の口の端についたチョコを指でとってやろうとして、思いとどまった。 この間、クリームを拭って舐めて、ちょっと気まずくなったんだった。 「今日はとってくれないの?」 黙っていると、早苗は悪戯っぽく微笑み首を傾げる。 やばい、すっげぇ可愛い。 「……自分でとれよ」 それでもとどまって言うと、早苗はにこにこと笑う。 なんか、早苗にからかわれるの変な感じ。 早苗は自分で口元をこすったが、見事に反対側。 こういうとこも癒される。 「こっちだっつーの」 仕方なくとってやるが、自分の口に運ぶか悩んで、結局早苗に指を差し出した。 俺が舐めたらだめなら、早苗に舐めさせればいい。 と思ったが、ダメだろこれ。 けれど、止めるより先に俺の右手の親指が早苗の口に包まれた。 背筋がぞくりとした。 早苗の舌の温もりやぬるぬるとした感触、加えて視覚的にもアウトだった。 やばいだろ、これ……。 別にいやらしく舐めてる訳でもないのに、変な気分になりそうだった。 「なんか、恥ずかしいー」 ちゅっと微かに音を立てて、早苗が口を離す。 見上げてくる早苗の口元が、唾液で濡れていて、たまらなく唇を奪いたくなる。 我慢、我慢。 「今度はつけないように食べろよ……」 「はーい」 前を向いて歩き出すと早苗も続いて歩き出す。 肉まんをやけになって口に放る。 その日は一日中悶々としたまま過ごすことになった。

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