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テスト9 《剣介》
水木金と続いたテストも、とうとう終わった。
「やっと終わったー」
「お疲れ、柳くん」
テスト前に詰め込むタイプだから、精神的にも身体的にも疲れた。
一方で、早苗は普段から勉強してるし特別疲れたわけではなさそうだ。
「おつかれー、二人も一緒にご飯する?」
唐突に、榎本がやってきた。
その後ろには桜井が立っていた。
と言うことは林宮もいくのだろうか?
「行くにしてもファミレスかハンバーガーだけどねー」
「ごめんね、今日はすることあるから。ね?」
早苗の一言で思い出す。
『テストが終わったら話すから』
意を決したように何かを言い掛けた早苗が、その後にそう言った。
テストが終わった今日、それがなんなのかわかる。
「あぁ、そうだな。わりぃ、また今度」
「りょうかーい! じゃあ涼香くん探しにいこ!」
「おっけー。じゃね、お二人さん」
榎本と桜井を見送り、早苗をみる。
目が合うと、微笑む早苗の面もちはいつもより緊張してるようだ。
「帰る、か」
「うんっ、帰ろ」
隣を歩くのも、家のドアを開けるのもなんだか緊張して、いつもとは違うことをしているような感覚だった。
「チャーハン作るけど、食うか?」
「いいの? ちょっと食べたいなぁ」
「あぁ、作るから。テレビでも見てていいぞ」
少しでも時間を稼いで、気持ちの整理をしたかった。
冷蔵庫からハムと卵と使いかけの玉ねぎを取り出す。
炊飯器をあけると、今朝炊いたばかりの米がそこそこ残っている。
期待している、告白なんかされたらいいなと。
けど、冷静に考えてそれはないから、きっと別の話。
期待しすぎたら傷つくのは俺だ。
普通に考えて、そんなわけないのだから。
「……暇じゃねぇの?」
テレビをみればいいと言ったのに、早苗はじっと俺をみていた。
「柳くんを見てる方が楽しいし」
これはいつもの反応。
そういうんじゃない、勘違いしたらダメだ。
言い聞かせるように心の中で繰り返した。
ハムを細かく切って、玉ねぎはみじん切り。
包丁を動かして気を逸らしていると、突然早苗がきりだした。
「ね、柳くん。僕、柳くんが好きだよ」
俺が好き。
言葉の意味を理解すると、くらっとして、手が滑り、玉ねぎを切るはずの切っ先が俺の指を切っていた。
「いっ」
「柳くん? あ、大丈夫!?」
全然、大丈夫じゃない。
早苗は何と言ったんだ、好き? 俺を?
指先の痛みが加わって、思考は上手くまとまらない。
血が滲んできていた。
「血がでてる」
ぎゅっと左手を早苗に掴まれ、流しで指先の血を水道水で流された。
少ししみて、現実なんだと思わされる。
早苗が俺を好きだと言った。
「ごめんね、いきなり言うからびっくりしちゃったよね。あ、絆創膏……あそこの棚だっけ?」
「いや、その……あぁ」
わざわざ改まって言うのだから、その好きは恋愛の意味での好きのはずだ。
だから、最近、あんな風に照れていたのか?
嬉しいはずなのに、素直に喜べなかった。
蛇口の水を止め、ティッシュで水と血を拭き取る。
早苗が絆創膏を持ってきて、俺の指に優しく貼ってくれた。
「ね、柳くん」
俺の左手をそっと握って、早苗はそう切り出した。
「僕と付き合ってくれますか?」
真剣な目。
照れているのか顔は赤くなっていた。
心臓の音がうるさくて、声がだせない。
望んでいながらも押し殺してきたその言葉を、早苗の方から言われている。
信じられないし、どうしたらいいのかわからなかった。
俺も好きだと言っていいのか?
これ以上、早苗のそばに行ってもいいのだろうか。
「……本気、なのか?」
やっと出た言葉はそんなで、頭は真っ白。
「うん。他の人に取られるんじゃないかって思うと苦しいし……。友達としてだけじゃなく、柳くんの一番になりたい」
何でそんなに真っ直ぐ見つめてくるんだろう。
もうずっと前から、俺の中の一番は早苗なのに。
『意気地なし』
こんな喜ばしい状況でも、一歩をどうしても踏み出せない。
「……けど、その、お、男同士だぞ」
顔が熱い。
心臓がおかしくなりそうなほど、どくどくと脈打っている。
一瞬目をつぶって息を吐き出すと同時に、首に手を回されぐっと引き寄せられた。
驚いて目を開けると、唇になにか柔らかいものがあたっていた。
すぐ近くに早苗の顔がある。
なんだよこれ、まるでキスしてるみたいな……。
離れていった早苗の顔は耳まで赤くなっていて、本当にしてしまったのだと思った。
ずっと我慢してきたことも、早苗はいとも簡単にやってしまう。
足に力が入らなくなり、その場に崩れた。
「僕は、柳くんなら……平気だよ。ね、嫌だった?」
言葉は出てこなくて、ただただ首を振るだけだった。
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