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テスト10 《剣介》
羊とはよく言ったものだ。
早苗はどちらかというと肉食系なのではと思う。
怖じ気づいた狼よりずっとずっと、強い。
「俺、前から……」
やっと混乱する頭から、言葉を絞り出した。
嬉しくないはずはなかった。
何年も想ってきた人と結ばれるのだから。
「早苗のこと、好きだった……。けど、言っちゃダメだって思って、我慢して我慢して……だから」
座り込んでる俺の前に、早苗もひざをつき俺の手をとった。
「どうしたらいいか、わかんねぇよ……」
好きだと伝えてはいけないと、早苗が俺にそういう思いを抱くはずはないと、ずっと言い聞かせてきた癖は、この一時ですぐには抜けてくれない。
「お互い好きなら、もう我慢しなくて……いいんじゃないかな」
そう言って、早苗は穏やかに微笑む。
その笑顔は、何でも受け止めてくれるような気がして、飲み込もうとした言葉を口に出してみた。
「俺で、いいなら……その、よろしく」
言えるときがもしあったら、俺から堂々と言いたかったのに。
告白は早苗からで、照れてる上に声も震えて、俺すっげぇかっこわりぃ。
そんな俺でも、早苗は今まで見たことないくらい嬉しそうに微笑んで、喜んでくれる。
「嬉しい。……柳くん、大好きだよっ」
なんでこんなに、こいつは可愛いんだろう。
「俺も……その、好きだ」
目があって、もうどうにでもなれと、早苗の頬に触れる。
すると恥ずかしそうに早苗は笑って、目を閉じた。
自然と顔を近付けて、そっと触れるだけのキスをする。
柔らかい感触に鼓動がはやくなった。
そのまま恐る恐る抱き寄せると、早苗は俺に身体を預け背中に手を回した。
夢のようで、幸せで、すごく満たされた。
早苗の温もりを感じながら、どれくらいそのままでいただろうか。
暫くして、ぐるぐると早苗の腹が鳴った。
「……聞こえちゃった?」
「聞こえちゃった。飯、そろそろ作るか」
ぽんぽんと頭を撫で、身体を離す。
目が合うとなんだか照れくさかった。
その後は、昼食をとって、2人でだらだらと過ごした。
手をつないで肩を寄せて、キスをした。
その日は時間が過ぎるのが、今までにないくらい惜しい一日だった。
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