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テスト終わりに8 《江》
正直、冗談でもプロポーズされたみたいでちょっとドキッとした。
松谷さんは背も高いし、しゃんとして姿勢も良くってタキシードがよく似合いそう。
「神社での結婚式も憧れますよねー」
「確かに」
秋良の言葉に松谷さんが頷く。
あぁ、彼ならきっと紋付き袴もよく似合う。
神社の雰囲気もぜったい合う。
「どっちがいい?」
そっと手を握られながら聞かれる。
秋良からはテーブルに隠れて見えない角度。
指を絡めて握ると、彼も握り返してきた。
「考えておく!」
「うん」
松谷さんは穏やかに笑う。
その笑い方が好き。
日だまりのなかにいるような暖かい気持ちになる。
「それにしても、龍太郎たち遅いねー」
秋良はにやにやして、氷だけになったらしいカップを振った。
もう秋良と俺と松谷さんは食べ終わってしまっていた。
「ナニしてんだかねー?」
「さすがにないでしょ。さすがに」
トイレに恋人二人でって、ベタだなぁ。
「あ、雪降ってきたな」
松谷さんの声に、俺と秋良も窓から外を見る。
ちらちらと細かい雪が降ってきていた。
「外出たくないなぁ」
「そうだな」
「帰りたくないなー」
「どっか寄ってくか?」
ぶつくさ文句を言うとちょっとだけ期待してたことを言ってくれる。
「でも、勉強するでしょ」
「今日くらいはいいよ」
松谷さんは高三で受験生。
毎日こつこつと勉強してるから、最近はあんまり長くは一緒にいられないでいた。
どこか遊びに行きたい気持ちと負担になりたくない気持ちとどっちもあった。
「そっか、松谷さん受験するんでしたね」
「あぁ。こいつ気ぃ遣ってるのか、一緒に遊びにも行ってくれなくて、寂しい」
「だってさ、江。遊びに行ったらー?」
寂しい。
俺も寂しい。
松谷さんが大学に受かったら、こうして頻繁に会ったり出来なくなるだろうし。
松谷さんのいない高校にあと二年もいなくちゃいけない。
「……いいの?」
「うん」
ぎゅっと握られた手に力がはいった。
松谷さんは優しい。
ずっとずっと側にいてほしい。
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