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テスト終わりに10 《一》

駅前のゲーセンにやってきた。 樺島と時々遊びに来てたとこだ。 「あ、これ! 松谷さん好きそうだなって」 平日の昼間で人はあまりいない。 二人でUFOキャッチャーの台を見て周ると樺島が指を指して言ってきた。 あまりかわいげのない熊のぬいぐるみ。 かわいげがない感じが逆にいい。 「いいな。やってみる」 「うん、頑張って!」 本当は樺島に頼めばすぐに取ってくれる。 俺とは違って器用で、こういうの得意だから。 俺は俺で悔しいからこうして数回やってみるが、いつも取れずじまいだった。 「あー、おしい」 「駄目だな」 力が入ってちょっと遠くに行きすぎたり、手前になったり……。 かすっても取れるまではいかない。 それでも樺島は励ましてくれて、眼鏡の奥の瞳が温かく見つめてくる。 「頼むわ」 「任せて、あの寝転がってる熊だよね」 「ん、それ」 頷くと樺島に交代。 少しずつ移動させて、三回目で彼は取ってしまった。 「はい、どーぞ」 「ありがとう」 「なんか、ちょっと……松谷さんに似てるね」 「んー。そうか?」 「このさ、ぐでーっとしてて、なんでも受け入れてくれそうな感じが」 樺島は俺とそのぬいぐるみを見比べてうんうんと頷いた。 あんまり実感は持てなかったけど、似てなくもないなと思った。 「あ」 ふと、視線を挙げた先にアライグマらしきぬいぐるみを見つけた。 なんか、あいつ似てるな……。 「ん? あれ?」 樺島も視線を追ってそちらを見て、指差して聞いてきた。 俺は頷いて、樺島の袖口をつかんでそのUFOキャッチャーの方に向かった。 近くで見ると、より似てる感じがする。 小さな丸眼鏡をしてるバージョンのが特に。 「これ、欲しい」 袖口をぎゅっとつかんで言うと、樺島はにこっと笑って頷く。 なんか、子どもみたいだ。 あれ欲しい、これ欲しいって。 はずかしい。 樺島は頼りになるからついつい甘えてしまうんだ。 「とれたよー!」 数回目でお目当てのぬいぐるみが取れた。 丸眼鏡にスーツのような服まで着てる、アライグマ。 「こいつ、樺島に似てる」 「え? 指先が器用的な意味で?」 「あ、それもあるな。確かに」 樺島は絵もうまいし、細かい作業も得意だ。 アライグマもサツマイモ洗ったりするしな、器用だ。 「俺に似てるから、欲しかったの?」 「うん。樺島に似てるから」 樺島は嬉しそうに嬉しそうに笑った。 その笑顔はだめだ、俺までにやけてしまう。 「じゃあ、俺が松谷さん似の熊を貰って、松谷さんは俺似のアライグマ」 「んー、こいつみたらお前に会いたくなりそう」 「会いたくなったら、代わりに抱きしめといて」 「……本物がいい」 台を背に立つ樺島は、少し照れてはにかむ。 ぬいぐるみを持ってない方の手を台について、樺島を見下ろした。 「どーしたの?」 「人いないから、ぎゅってしたい」 「いいよ。本物、抱きしめて」 樺島はそう言うと、俺の服をぎゅっと掴んで身体を寄せてくる。 優しく抱き寄せて、樺島の首もとに顔を寄せる。 また甘えてる。 身長も体格も、俺の方がいいから変な感じ。 けど、いつでも彼は甘えさせてくれるから、俺の我が侭は歯止めがきかなくなりそう。 じんわりと樺島から伝わる温りが心地よかった。

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