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テスト終わりに11 《一》

ゲーセンでしばらく遊び、駅ビルの中を二人で歩いていると樺島にメールがきた。 母親かららしい。 「カレー作ろうとしてカレールー買うの忘れちゃった、だってさ」 「相変わらず天然だな」 「松谷さんも大概だけどねー」 「そんなことないだろ。ルーはちゃんと買う。あと、カレー粉はいるよな?」 まじめに考えて答えたのに樺島はぷっと吹き出して、声を出して笑った。 あぁ、変なこと言ったみたいだ。 「いらないのか、カレー粉は」 「いれてもいいかもだけど。普通は使わないんじゃないかなー。そっか松谷さん料理苦手だもんね?」 「うん、生傷が絶えない」 「可愛い」 口元を押さえて、樺島はまた笑う。 笑顔になるなら満足だ。 「あ、松谷さんいっしょなら小麦粉も買ってきてだって、図々しいな母さん」 「パン作るのかね」 「たぶんね、寒くなってきたから」 「寒いときはパンより炊き立ての米だな、俺は」 「それは俺もだなー。じゃなくて、寒いときのがパン作りやすいからって事だけどね」 「……あぁ、そういうことか」 樺島に指摘されてちょっと恥ずかしくなる。 的外れなこと言ったな。 「あ、そろそろ行こう。四時の電車出るから」 それでも樺島は嫌な顔しない。 むしろあったかく笑ってくれる。 人が多くなる夕方の電車。 ドアの近くに立って、樺島は外を眺める。 覆い被さるようにして俺も一緒にみた。 「あの家すごいきれい……これは色合いがいいな」 流れていく景色の中で家々を眺める。 人の多い息苦しさもこいつの声を聞いていると多少紛れた。 三駅目で降りる。 駅近くのスーパーに二人で向かった。 「洋風な家がいい?」 「え?」 「建てるならさ」 歩きながら、思いついたことを口に出す。 秋良ちゃんと話してたこと。 結婚式、出来たらいいのになって思った。 結婚して一緒に暮らすなら、マイホームってやつが欲しい。 「俺が建てるなら?」 唐突だったからか樺島はぽかん口を開けた。 「いや、俺と結婚して住むならって話」 「あ、あぁ。それは、ほら……松谷さんと一緒に考えたい、かな」 「そっか。……あっ」 ふとあることに気付いた。 樺島は不思議そうに俺をみた。 大事なことを忘れてた。 「指輪はまだないけどさ、俺と一緒にいて欲しい、ずっと」 道端でなんて、全然ムードはないけれど。 それでも、今言いたかった。 樺島は驚いて、そして嬉しそうに微笑む。 「うんっ、一緒にいる!」 ぎゅっと抱きついてきて、それがたまらなく愛おしい。 本物のプロポーズは、まだまだ先になりそうだけれど、今はこれでいい。 人目も気にしないで手をつないで、二人で買い物をした。

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