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テスト終わりに12 《一》
カレーのルーと小麦粉を二袋買って、樺島の家へ向かう。
「重くない?」
「これくらい平気」
「いいなー、俺も松谷さんぐらいムキムキになりたい」
隣を歩く樺島をちらりとみる。
細くて、あんまり筋肉も肉もない身体。
冷たい風で耳や鼻が赤くなっていた。
「樺島は、そのままでいいよ」
「うーん……。まぁ、全然筋肉つかない体質だしね」
苦笑して樺島は溜め息をつく。
空気が冷たくてその吐く息は白い。
「筋肉なくても、十分頼りになるよ」
「そうかな? そうだと、いいけど……」
樺島の微笑みは、とても悲しそうだった。
何でもできる樺島だけど、身体は弱くて力もあまりない。
それが、彼のコンプレックス。
「樺島は、俺ができないことたくさんできる」
「それはそうだけど。松谷さんは俺がしたいことできるよ」
「じゃあ樺島ができない事は俺がして、俺ができないことは樺島が……ん、これ、確実に対等じゃないな」
絶対俺のが出来ないこと多い。
料理もクレーンゲームも樺島は、なんでもできる。
俺は力が強いとかそれだけ。
「なんか今日変だよ」
樺島は泣きそうな、うわずった声だった。
そっと手を握ると強く握り返してくる。
「全部、プロポーズしてるみたい……」
弱々しく樺島は笑う。
確かにそうかもしれない。
無意識に離れることを意識してるのだろうか。
卒業したら離れてしまう。
つなぎ止める為の形が欲しい。
ふと、小学生の男の子が二人で歩いてきた。
ランドセルがまだまだ大きく感じる、入りたてくらいの小さな子たちが、楽しそうに話しながら横を通り過ぎていった。
傷はいつまでたっても消えないのだろうか。
握っていた樺島の手から力が抜け、鼻をすする音がした。
「樺島……」
そっと声をかけてのぞき込む。
冷えて赤くなった樺島の頬に涙が一筋零れた。
「ごめん……。まだ、だめみたい……」
「いいよ、泣いて」
声を抑えて泣く姿が不憫で、抱き寄せる。
樺島の傷は深い。
何年経っても、俺が側にいても、彼はその痛みに涙を流す。
頼りがいがあるけれど、全てをこなせるほど、受け止められるほど彼は強くない。
「ごめん……なさ、ぃ……」
「大丈夫、大丈夫」
俺に謝っているのか、それとも『あの子』になのか。
わからないけれど、何度も大丈夫と耳元で言った。
樺島が泣いてると俺まで泣きそうになる。
泣かないようにと上を見て視線を下げると、すぐそこの公園の薄く積もった雪の上に小さな雪だるまがひとつあるのに気付いた。
ぽつんと立っている様に寂しさを覚えた。
そして思い立って、樺島の手をとった。
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