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寝ぼけてるでしょ 《早苗》

どれくらい寝ていたんだろう。 目が覚めるとあたりが暗くて、どこにいるのか一瞬わからなかった。 そして、すぐに隣で寝息をたてている柳くんに気付いた。 そっか、柳くんの家にきて一緒に寝ちゃったんだった。 過ごし慣れてしまったその部屋で、手探りで電気をつけた。 「んぅ……」 少し眩しそうにして柳くんが寝返りを打った。 こんなに無防備な姿、普段はみれないから新鮮で、可愛いな、なんて。 寝顔に見とれてしばらくじっくり見ていると、柳くんちの電話が鳴った。 慌てて受話器をとってから良かったのかなと迷いつつも、仕方ないから耳にあてた。 「もしもし……か、あっ、えっと……柳です」 自分の名字を言いそうになって慌てて言い直す。 柳くんの名字を言うのはちょっと気恥ずかしい。 恋人になったから余計にそう思うのかもしれないと気付いて、ひとりでに顔がにやけた。 『あれ、早苗くん? 剣介いないの?』 少しハスキーな女性の声。 ハキハキした話し方やその声を知っていた。 「こんにちは、柳くんのお母さん。柳くん、あ……剣介くん、今寝てて」 『あら、そうなのー。いつもありがとうね、剣介と仲良くしてくれて』 「いえいえ、こちらこそ剣介くんにはお世話になってて。いつものお使い、ですか?」 柳くんの家に来るようになって、時々晩ご飯のリクエストやお使いを柳くんが頼まれてるのを見たことがある。 『えぇ、アイス食べたくってね。自分で行ってもいいんだけど、仕事終わるの遅くなりそうだから。ご飯は先に食べるように言っておいて。あ、早苗くんの分も買ってもらいなね剣介に』 「いや、そんな悪いですよ!」 『いーのいーの、言わなくても剣介なら奢りそうだけどね。私のは適当に新しくでたのでって言っておいて。じゃあ、またね早苗くん』 嵐のように話して、電話は切れた。 ちょっとだけ緊張した。 柳くんのお母さんとは、あんまりお話ししたこと無いから。 けど、かっこよくてどことなく柳くんに似てる。 受話器を置いて一息つくと同時に後ろから抱きしめられた。 「わっ! や、柳くん!?」 電話に集中してたから傍にいることに気が付かなかった。 びっくりして心臓がバクバクしていた。 「名前で……」 「えっ?」 寝起きだからか、柳くんの声は掠れていて色っぽかった。 それに話し方もぼんやりで、寝ぼけてるのかもしれない。 「名前で呼んでたな……剣介って」 「あぁ、電話で? お母さんからだったよ、いつものおつかい」 「……もう一回、呼んでみて?」 ぎゅっと抱きしめる柳くんの手に力が入り、耳元で掠れた声で囁かれると、びっくりしたの以上にドキドキしてきた。 「なぁ……」 催促するように言われ、ドキドキが加速した。 なんか変。 いつもの柳くんじゃないみたい。 絶対、寝ぼけてる! 「柳くん、寝ぼけてるでしょ」 「け、ん、す、け……」 柳くんは、頑なに名前で呼ばせたいみたい。 なんか秋良ちゃんみたいだ。 いざ改めて言うとなると、恥ずかしくなってきてなかなか言えない。 「……け、けん、すけ」 何とか言うと、柳くんは満足げに笑ってソファーに座り、ぎゅっと僕を抱きしめながら眠った。

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