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悪戯 《早苗》
もう一眠りしそうな柳くんを揺すって何とか起こそうと試みる。
「ねぇ、起きてよー」
ぜんぜん起きる気配がない。
抱きついたまま離れないし。
こっちに体重かけられて少し重いし。
……ちょっとだけ、悪戯しちゃおうかな。
見つかったら怒られそうだけど、ポケットをあさってスマホをとりだす。
カメラを起動して、身体をひねって柳くんの寝顔を画面に映す。
恐る恐る一枚撮ってみる。
シャッター音はやや五月蠅いけど、柳くんに起きる様子はない。
少しずつ角度を変えてこっそり、こっそり写真に収める。
少し口まで開けちゃって、なんて無防備なんだろう。
目つきが鋭かったり、目も細めだけど、こうしてみると怖いと思う要素はない。
鼻が高めですっとしてて、唇は薄くて綺麗な形をしてる。
髪の毛は真っ黒でさらさらだし、眉毛がきりっとしててかっこいい。
目だって瞳の色が少し明るくて、優しくて……ん、あれ?
「何してんの……?」
画面越しに目があって。
閉じようとして慌ててシャッターを押してしまった。
カシャッ
二人だけの空間に鳴り響くシャッター音。
逃げなきゃと思うのに、柳くんに抱きしめられてるから動けない。
「何、撮ってんの?」
「ち、違うの! これはちょっと手元が滑って」
「ふぅん、へぇ……じゃあ今の一枚しかねぇよな?」
意地悪く柳くんは笑う。
バレてたのかなもしかして……。
「ほら、貸しなさい、写真消すから」
「や、やだ!」
思わず口から出て、ますます危険な状態だ。
両手で持っているスマホを取られないように引く。
柳くんは僕を抱きしめる手を片方外して、そのまま僕をソファーに押し倒した。
「力じゃかなわねぇだろ」
不適に笑われると、流石に僕もちょっと悔しい。
「柳くんが起きないから、悪戯したんだから! 柳くんが起きてれば、しなかったし……」
反論したところでやはり勝ち目が無いのはわかってるけど。
やっぱり消されるのは嫌だった。
次にいつ、あんな風に無防備な柳くんを見れるかわからない。
「なんだよ、そんなに俺の写真欲しいのか?」
「う、うん! 消しちゃやだ」
「じゃあさ、目には目を歯には歯を」
「えっ?」
「悪戯には悪戯を」
掠れた声は色っぽくて、やけに耳に残る。
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