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悪戯には悪戯を 《早苗》
片手で僕の両手首をひとまとめに掴んで、頭の上に持って行かれる。
手に力を込めてみてもびくともしない。
「柳くん、力強すぎ……」
「早苗が弱すぎ」
「そんなことないし、鍛えてないだけで普通ですー」
「いやもうちょっとあるだろ普通は」
「もう、バカにして!」
「おー、あったあった」
片手で探していたスマホが見つかったらしく、柳くんはそれを僕に向けてきた。
柳くんを撮っておいて言えないけど、僕も写真を撮られるのは恥ずかしかった。
無駄だとわかっても手を動かして逃れようとして、馬乗りにされてる体を動かして体勢を変えようとする。
けれど案の定しっかり固定されてしまって身動きは取れなかった。
「ううむ」
柳くんはカメラを僕に向けながら唸って、これはやべぇなと独り言を呟いた。
恥ずかしくて顔を背けると、シャッター音らしき音がした。
撮られた、のかな?
柳くんの方を向いてムッとした顔をしてみるけど、柳くんはなんの反応もしない。
ずっとこちらにスマホを向けてくる。
どうして何もいわないの?
「や、柳くん……?」
不安になって声をかけても何の返事も返してくれない。
「そういう意地悪は、やだよ……」
悲しくなってきてそう言うと、短いシャッター音がして、はっとした。
「わりぃ、意地悪し過ぎたな」
柳くんはなんでもないような、嬉しそうな顔をして僕の頭をくしゃっと撫でた。
けど、僕は浮かない気分。
だって、絶対そうだ。
「……動画撮った?」
「あ、バレたか」
柳くんはしれっと言って、僕から離れるとキッチンの方へ歩いていく。
恥ずかしい。
動画だと気付かなくて、思いっきり直視してしまった。
「消してよー!」
「やーだ」
ソファーに寝ころんだまま、恥ずかしくて顔を両手で隠して、声を張り上げる。
けど柳くんも頑固で、素直にうんとは言ってくれない。
柳くんの寝顔の代償は、大きかった……。
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