54 / 169
悶々 《剣介》
スマホを早苗に向けてから、えらい格好をさせていることに気付いた。
両手を拘束させて、その上に跨がって。
早苗の頬は赤らんでたし、抵抗しているような感じがまた、変な方向へと思考を導いた。
俺の力が強いからなら、いいのだ。
ただきっと、どう見ても、早苗は平均より力が弱い。
身長も低めで体重も軽い。
もし俺以外の奴に、と考えると不安がつのる。
そしてもう一方で俺にかなわない事が嬉しい。
写真を撮ろうと思ったが、欲望に負けて動画を撮っていた。
俺も大概に変態なのかもしれない。
不安そうな表情に、声に申し訳ないと思いながら変な征服感を感じてなかなか止められなかった。
「そういう意地悪は、やだよ……」
画面越しに見ると余計に、刺激が強かった。
赤らんだ頬や震えそうな声。
獲物を前にしたような高揚感で包まれた。
けれど、まだ、だめ。
「わりぃ、意地悪し過ぎたな」
安心させようと頭を撫でるが、その表情は不服そうだ。
罪悪感が残って、少し胸が痛んだ。
動画を撮っていたいたこともバレて、消せと言われたが、消したくは無かった。
初めての刺激ばかりで、暴走しそうになる。
傷つけないように大事にしたいから。
これを見たら少しはその刺激に慣れて、少しは苦い罪悪感を感じるだろう。
冷蔵庫の中を見ながら、こっそりと溜め息をつく。
早苗が俺を好きだと言ったって、男と付き合ったことがあるわけでもない。
そもそも女とも付き合ったことも無いと思う。
キスはあいつの方からしてきたから平気だろうけど、それ以上はどうなんだろう。
俺に組み敷かれても、何かされるとか意識してるようには見えなかった。
付き合うことが出来たのは最高に幸せだ。
ただここから先だって知らないことは多い。
何年も片想いで悶々としてきた欲望が暴走しそうだし、怖じ気付く癖もすぐには治らなそうだ。
早苗のこと言えないくらい、俺にも経験なんて無い。
早苗ばかり見てきたから、当然なのだろうけど……。
初めてのことはなかなか一歩が踏み出せない。
時計を見ると午後5時半。
外は薄暗く雪こそ降っていないが寒さも染みそうだ。
「買い物行くけど、行くか?」
「行く! 柳くんのお母さんから、さっき電話あったよ。アイス買ってきてって」
「あ? そういやなんか電話の音したような」
「寝ぼけてたね」
「は?」
寝ぼけてた?
ということは、ぼんやり覚えているあれは夢じゃ無かったのか。
早苗に名前で呼ばれるのが新鮮で、無理矢理名前で呼ばせた夢。
「なんでもないよー。お母さんのはなんか新しいのがいいって。あと、遅くなりそうだからご飯先に食べててだって」
「おぅ、そっかそっか。わりぃな寝てて」
出来るだけ寝ないようにしないとな。
早苗の前だと何をしでかすかわからない。
夢だと思って襲いました、なんて洒落になんねぇぞ。
いや、けどそうでもしないと……。
いやいや、それはだめだろう。
「僕の分も買ってって言ってたよ」
動画撮られたのがそんなに嫌だったのか、むっとした顔でじとっと俺を見上げてくる。
可愛い。
ちと怒らせると、可愛いな。
「言われなくても買ってやるよ」
「ほんと? 何にしようかなー?」
甘いものが好きで、怒りはそんな長引かなくて。
どこをとっても好きだった。
柔らかい髪をくしゃっと撫でる。
壊さないように大事にしたい。
こいつが笑顔でいれるようにしたい。
不思議そうに見上げてくる早苗に微笑みかける。
「行くか」
「うん!」
隣にいてくれることが、とても幸せだ。
ともだちにシェアしよう!