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小春 《剣介》
声のした方をみると、早苗とよく似た女の子がいた。
「あれ、小春?」
小春(こはる)。
早苗の妹だ。
見た目は本当によく似ている。
ぱっちりした目元や口の形まで。
早苗が女だったらこんななんだろうなと、しみじみ思う。
俺はまだ数回しか会ったことは無かった。
「柳さん、こんばんは」
「お、おぅ。こんばんは」
それでも俺のことを覚えていたのかにっこり微笑んで挨拶してくれた。
「小春どうしたの? 買い物?」
「うん。ちょうどいいし、お兄ちゃんケーキ買って。あとクレープといちごも食べたい!」
「え? そんなに? 一つにしなよ、太るっていつも気にしてるじゃん」
「いいの。今日は、食べたいの!」
「どうしたのさ、なんかあった?」
「大あり、彼氏振ってきた。ほんとあいつサイテー」
見た目こそは似ているが、小春はとても気が強そうだ。
しかも、彼氏を振ってきたとは……。
「あんなにラブラブだったのに、なんでまた」
「浮気よ、浮気。モテるからっていい気になって、ほんとムカつく。だからおごって!」
先ほどにこりと微笑んでいたとは思えないすごい剣幕で、小春は話す。
プライドも高そうだから、浮気なんてされたらかなり傷ついたんじゃないだろうか。
「ケーキどれがいいんだ?」
声をかけると、小春は驚いたような戸惑うような表情で見上げてきた。
「え、あ……いやでも」
早苗の方を見てまた俺を見上げる。
ひとつ頷くと、小春は恥ずかしそうに目を伏せた。
「えっと、じゃああの……チーズケーキ」
「うん。今日は好きなもの食べろよ」
「あ、りがとうございます」
「浮気なんてするやつは俺も許せねぇし」
こくんと頷いて小春は悲しそうな表情になる。
さすがに振った側といっても、浮気されたわけだし悲しくないわけ無いよな。
確か上の弟の隼介と同い年だったと思うが、中学二年で浮気だのなんだのちょっとませてるなとも思った。
小春くらい美人だと、そういうもんなんだろうか。
「じゃあ僕はクレープ、奢るよ」
「いらないし、別に」
「えぇっ! いらないならいいけどさぁ……」
三人でスイーツコーナーに向かう。
小春は、早苗には反抗期なようだ。
妹に振り回されている姿は多少可哀想でもあったが、微笑ましくもあった。
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