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浮気 《早苗》
彼氏さんの顔こそちゃんと見たことはないけれど、小春がいつも楽しげに電話していたのは覚えている。
もう半年以上は続いていたんじゃないだろうか。
兄の立場から言っても、小春は美人な方だし、気は強いけれど悪い子ではない。
そんな子でも浮気されちゃうもんなんだなと、つい思ってしまう。
「モテる人だけど、まさか浮気するとは思わなかったなぁ……」
「最近も家に来たりしてたのにね」
「そうなの。ここ数日急につれなくなったなと思ったら、昨日知らない女の子と仲よさげにいるの見ちゃって。嫉妬深いほうじゃないし普段は気にしないんだけど、あれは違う空気だったんだよね。それで聞いてみたら、先輩で断れなくてとか言ってさ」
「相手年上なのか……モテんだなぁ」
「モテるし、いろいろと適当な人なの。それにほっとけない雰囲気があるっていうか」
「うんうん。いるよなぁ、ほっとけねぇやつ」
小春の話に相槌をうち柳くんはこちらをみて頷く。
「え? 僕のこと?」
「あぁ。俺が過保護なだけかも知んねぇけど」
「柳くんは面倒見いいからねぇ」
「口にまたつけてる、粉」
「んっ……ありがと」
おもちのアイスについてた粉だろうか。
柳くんが手を伸ばしてきて、そっとティッシュで拭いてくれた。
妹の前でちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。
「なーんか、すっごい仲良しなんだね」
小春はそう言って静かに微笑む。
仲良し。
仲良しだよね。
恋人になったし、友達としてもそうだ。
柳くんといるのは安心できて、楽しいなって思える。
ちらっと柳くんを見ると目があって、頬がゆるんでしまう。
柳くんもにこっと笑う。
あぁ、笑顔がとってもかっこいい。
「柳さんは浮気しなさそうだし、お兄ちゃんはできなさそう」
チーズケーキを口に運びながら、小春はぼそっと言う。
「ま、俺はしねぇな」
「一人の人を大事にしそうなイメージね」
柳くんはそういう人だと僕も思う。
僕のことずっと好きだったって言ってくれたし。
「早苗はあれだな、すぐ顔に出るからな」
「そうなの。ぜんぜん嘘つけないのよね」
「わかりやすいよな」
あったかい気持ちで柳くんを見てると、小春と柳くんが楽しそうに話した。
ちょっとむっとして柳くんを見つめる。
にやにやと笑う柳くんは僕の頭を優しくなでてきた。
「そーゆーとこが、こいつのいいとこだよな」
「ねぇ、それ褒めてるの?」
「褒めてんだよ」
すんなりと受け入れられはしないけど、嘘をつくのは苦手な方だと思う。
ばれたくないときにばれるのは困るんだけど……。
それでも柳くんが褒めてくれるなら良いかな?
「二人っていつもそんな感じなの?」
小春がチーズケーキをフォークに刺しつつ聞いてくる。
「こんな感じ、だよね?」
「あー、まぁ。そうっちゃそうだな」
「ふーん」
意味ありげに無表情で小春はチーズケーキを口に放る。
僕たちがどうしたんだろう?
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