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お誘い 《剣介》
早苗の妹が一緒のときに誘うのはどうかと思った。
やっと長年の思いも叶って早苗と付き合える事になったわけだし、ただ出かけるだけじゃなくデートというものをしてみたかった。
何が今までと変わるのかはよくわからないけれど、気持ち的には何倍も誘いにくかった。
普段のようにさらっと出かけようと言い出せばいいんだ、変に意識するな……。
自分になんとか言い聞かせて、隣を歩く早苗を見下ろす。
「な、早苗」
「なぁに、柳くん?」
「明日休みだし、どっかでかけるか?」
早苗はちょっと考え出す。
あー、これはだめっぽい?
「ごめん、明日はえっと、用事があって……」
「あぁ……そうだよな。いきなりわりぃ」
予想通り用事があるらしい。
まぁ、だめなときはだめだ。
残念で仕方ないのだが、それをさとられないように笑顔で返す。
デートは先送り。
けど、焦ることはない。
明日がだめならまた来週でも誘ってみよう。
世間話をしながら歩く。
そんなに距離もない道のりが過ぎるのが、今日はずっと早いように感じた。
一緒にい足りない。
なんで寝てしまったんだろうと、そんなとこまで若干後悔した。
二人きりの時間はなかなか取れないのだ。
「じゃあ、またな」
「いつもありがと、帰り気をつけてね柳くん」
早苗ん家に到着してそう言うと、早苗は寂しげに微笑む。
「お兄ちゃん、いつも送ってもらってたの?」
「え? うん、危ないからって。柳くん心配性だから」
「暗くなってからは何があるかわかんねーかんな」
小春は俺と早苗を交互に見てふーんと、あまり興味もなさそうに返した。
「あ、柳さん、ケーキありがとうございました」
「おう、元気だせよ」
俺の顔を見上げた小春が思い出したように礼を言って、ぺこりとお辞儀してきた。
礼儀正しくていい子で、妹が出来たような気になる。
早苗と顔が似ていてもやっぱり俺は早苗が好きなんだなと思う。
顔とかじゃなく、早苗が好きなんだ。
もちろんふわふわとした雰囲気や顔のパーツや体格だって好きだけれど。
それ以上の何かに惹かれてる。
寂しげな早苗の頭を撫でて、惜しむ気持ちを飲み込む。
「じゃあ」
手を振って家へ向かって走る。
冷えた空気を吸い込むと頭もすっきりしてくる。
幸せな日だった。
叶うと思わなかった想いが叶った日。
唇に残った感触や肌に感じた温もりを思い出して、顔が緩むのを止めることはできなかった。
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