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恋しくて 《早苗》

「ね、明日一緒に買い物いく?」 玄関で靴を脱ぎつつ小春に声をかける。 「え? いいけど……あ、柳さんのプレゼント買うの?」 「うん、そのつもりっ」 「じゃあ選ぶの手伝ったげる」 「小春がいると助かるよ」 プレゼントなんかは小春のがなにをあげたらいいかわかっている気がした。 それに気晴らしになると良いなって、そういう気持ちもあった。 「おかえりー、遅かったね」 リビングから顔を出したのはお母さんだった。 大学の教授をしているから帰る時間はばらついているけど、大抵遅かった。 今日は珍しく早い。 「友達の家に行ってたから」 「そう、余り迷惑かけないんだよ。それに、もう二年の冬になるんだから勉強始めないとじゃない? 大学受けるんでしょ」 「うん、そだね……ぼちぼち始めるし」 「小春もね?」 「はいはい。ご飯出来てる? お腹空いたー」 職業柄か母親としてなのか、勉強のことになるとちょっとこうるさい。 リビングに向かうとダイニングテーブルの上にはおかずが、少し置いてあった。 惣菜のコロッケなんかと野菜炒めとサラダ。 キッチンには味噌汁もあった。 お母さんはあんまり料理は得意じゃない方だ。 ただレパートリーは少ないけどどれも美味しい。 「そういやさ、早苗。修学旅行再来週からだっけ?」 「そうだね。12月の始めからだから」 ご飯や味噌汁を盛りながら話す。 修学旅行、か。 柳くんと思い出が作れるかなって思うと嬉しい。 まだ、ちょっと先だけど、とても楽しみだ。 「ね、お父さんは?」 「あー、なんかテストの採点をしたいから遅くなるって」 小春は、そうだよねと納得してテーブルに向かう。 お父さんは高校の数学の先生をしてる。 テスト期間のこの時期はなにかと忙しい。 「いつものことよ。先に食べてましょ」 席に着いて手を合わせて、ご飯を食べる。 3人で囲む食卓はちらほらと会話があるけれど、ほとんどテレビの音。 柳くん家は小さい子がいるからかもだけど、賑やかで暖かい。 毎日のようにいるせいか、あの空間は居心地がよくて、恋しい。 柳くんが微笑んでいる横に行きたい。 あーあ、やっぱり一緒にお出掛けすることにしたらよかったかな? さっきまでずっとそばにいたのに、今すぐ会いたい。 わがままになっちゃってるよね。

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