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特訓の始まり 《早苗》

桜井くん達を見送った後、また別の本を取り眺めた。 くまの形のクッキー。 ナッツを抱えてるみたいで可愛らしい。 カラフルなステンドグラスクッキーもキラキラでいいな。 柳くんはどれが好きだろう。 ページをめくりながら、頭の中はすぐ柳くんでいっぱいになる。 今なにしてるかな。 昨日、告白するのすごく緊張した。 いきなりキス……しちゃったけど、大丈夫だったかな。 柳くんの大きな手をぎゅっと握るのが幸せだった。 寝ぼけてる柳くん、ちょっと甘えん坊でかわいかったな。 「お兄ちゃん、おまたせ」 ぼんやりとしていると、小春が戻ってきた。 「なに、お菓子作るの? 柳さんに?」 「あ、うん、作ろうかなって。小春出来たよね?」 「クッキーぐらいしか作れないけどね。ふーん、そっか」 小春は無表情にまじまじと僕を見る。 探るような、見透かすような視線は居心地が悪かった。 なんだろう、なんなんだろう? 「それなら、何がなんでも美味しいの作るわよ!」 小春の気合いの入った声を聞いて、しまったと後悔した。 頭には小学生の頃の思い出がフラッシュバックしていた。 家庭科のボタン付けが苦手だった僕は、小春に教えてと頼んだ。 すると、1から10どころか100くらいまでみっちりこってり裁縫を指導された。 夜遅くまで裁縫、夢の中でも裁縫に明け暮れた日々。 わりと完璧主義の妹は、完璧に教え込まなきゃ気が済まないのだ。 「や、やっぱり、自分で……」 「何言ってるのよ、遠慮しないで。時間もないし基本のクッキーでいきましょう。味で勝負よ、胃袋を掴むの!」 「あ、はは……」 完全に頼む相手を間違ったと、気付くのが遅かった。 これはまた夢の中でもクッキーを作らされそうだ。 その日から小春の気合い十分、熱血指導が始まってしまったのは言うまでもない……。

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