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疑惑 《剣介》

掃除を終えて教室へ向かって歩く。 悩んだ結果、あの動画のせいだったりしないかと思い至った。 消してと嫌がってたし。 後で思い出して、いきなり押し倒したのを気持ち悪いと思ったとか。 あぁ、確かに男同士ですんのとか普通の奴にとっちゃ最悪だよな。 『柳くんのこと好きだけど、そういうことは出来ないや……』 とか? ありえるかもな。 やばい、泣けてくる……。 人の多い廊下を歩いていると早苗を見つけた。 榎本と、楽しげに、話していた。 ……まさか、な? 榎本はべたべたと早苗の頬に触れたり、頭を撫でていた。 満更でもなさそうに早苗は微笑んでいる。 もやもやと思考は悪い方へ向かっていく。 「ーー早苗、愛してるよ。なんちゃって」 「もー、秋良ちゃんってば、恥ずかしいよ」 近付くと声も聞こえてきた。 なんだよ、やめろよ……。 俺に気付くと早苗は慌てて手に持っていたものを背中に隠した。 榎本はにやにやと笑って早苗の横にくっつく。 「ど、どしたの柳くん?」 焦った様子の早苗を見つめると目をそらされた。 「……なに隠してんだよ」 「いや、別に何でもないよ!」 「そうそう、たいしたものじゃないから!」 早苗は慌ててるし、榎本もその横でとぼける。 俺の入る隙なんて無いみたいに見えて喉が苦しくなってきた。 「あ、えっと。今日は部活いかないから。その、一人で帰るからっ」 早苗が追い討ちをかけるように言ってくる。 何でなのかとなりふり構わず怒鳴りたかった。 けれど、早苗は目も合わせてくれない。 何も言えるわけ無かった。 「わかった……」 そのまま二人を見ていたらほんとに泣きそうで、その場を立ち去った。 浮気。 小春の話していたことを思い出した。 そんなわけ無い。 そんなことするはずないって、わかっていても考えずにはいられなかった。 俺の目は見てくれないのに、榎本とはあんなに楽しそうにしやがって……。 舌打ちするとクラスの奴らがびびって、それすらも気に入らなかった。 早苗とやっと結ばれたと思ったのに、あれは俺の夢だったのかもしれない。 都合のいい夢。 もしくはたちの悪い冗談だ。 苛ついたまま、部活に向かった。 今日はあの子いないのなんて聞かれるのもうっとおしくて仕方がなかった。

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