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隠しごと 《早苗》

柳くんを怒らせちゃったかもしれない。 「あちゃー……あれはやばそうだね」 秋良ちゃんが隣で力なく笑う。 「どうしよ……」 「まぁ、柳くんのことだし……うーん」 掃除を終えて戻ると秋良ちゃんがいたから、クッキーの味見をして貰っていた。 「ん、ちょっと焦げてる?」 「そうなんだよねぇ……」 小春の熱烈な指導のもと作ったのはいいけど、手際が悪いせいか夜遅くまでかかった。 お陰で寝不足だし、熱っぽい。 出来映えもいまいち。 「隈できちゃってるよかっしー」 「うんー、眠い」 秋良ちゃんはほっぺや目の下の隈をそっと撫でてくる。 眠くて目をつむると、今度は頭を撫でられる。 「ちょっと、寝癖もついてるんじゃない? 珍しいねぇ」 「え、ほんと? 朝ばたばたしてたから……」 「撫でたらましになったかな」 「ありがと、秋良ちゃん」 撫でられたと思ったら、寝癖を撫でつけていたのか。 秋良ちゃんは親切で優しい。 「それにしてもさ、かっしーの手作りお菓子なんて貰ったら柳くん超感激しそうだよね。……早苗、愛してるよ。なんちゃって」 「もー、秋良ちゃんってば、恥ずかしいよ」 けど、ほんとに柳くんにそんなこと言われたらどうしよう。 想像して照れていると、柳くんの姿が見えた。 慌ててクッキーの入った袋を背中に隠すと柳くんはちょっとむっとした顔。 今日はずっとその顔だ。 僕のせいなのはわかってるけど、バラしたら台無しになってしまう。 一緒に帰れないのだって、柳くんの為にクッキーの特訓をするからだし。 どう伝えても、柳くんは鋭いからバレそう。 なにも言わないのはよくないってわかってるけど、どうしたらばれないのかわからない。 結局柳くんは部活に行ってしまった。 怖くて、顔を見れなかったけど、絶対怒ってるよね……? 「もうここはさ、気合いで乗り越えてさ、誕生日に盛大に喜ばせよう!」 「仲直りできるかな……」 「絶対できるって。あのかっしー溺愛してる柳くんが嫌いになるわけないよー」 秋良ちゃんは明るく励ましてくれる。 「けど、とりあえず謝った方がいいわね。あんまり時間経つと言いにくくなるでしょ」 「うん……」 ほんとうは全部今すぐに話したい。 けど、もう手遅れで、口もききたくないって思われてたらどうしよう。 あんなに怒ってる柳くんは初めてでどうしたらいいかわかんないよ……。

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