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不器用 《早苗》
一人で帰る道のりは寂しくて、いつもよりずっと寒い気がした。
家に帰ると小春はまだいなくて、部屋で軽く課題に手をつける。
集中しようとしても、柳くんへのプレゼントが目に入って、怒った顔が頭に浮かんできてしまった。
柳くんは優しいから、今までいくら迷惑をかけたって笑ってくれた。
だから、こんなこと初めてだった。
どうやって謝ったらいいのかな。
理由を言って謝ったら、許してくれると思う。
そう思うけど、冷たくしたから嫌われちゃってたらどうしよう。
階段を上ってくる足音がして、暫くしたあと部屋のドアがノックされた。
小春が帰ってきたらしい。
「おかえり」
「ただいま。卵とバター出しておいた?」
「あ、忘れてた……」
「もう、しっかりしてよね。ていうか、なにその湿っぽい顔」
お気に入りのエプロンをつけて準備万端の小春はじっと僕の顔を見る。
「わかった、柳さんのことね」
「うんー。……お菓子作ってること言うに言えなくて……その、冷たくしちゃって」
小春は呆れた顔で溜め息をひとつ。
「いっそ素直に話せばいいのに、お兄ちゃん嘘なんてつけないんだから」
「そうなんだけど、ほら、サプライズしたいなって」
「そういうのはもっと器用な人がするもんなのよ。取りあえず作りましょう、回数こなさないと手際は良くならないんだから」
小春の言うことも最もだと思った。
向いてないんだってつくづく感じた。
一階に降りてキッチンにつくと、今日も特訓。
土曜から教わって何度か作ったから工程は理解できた。
少しは上手く作れるようになった、はず。
オーブンにいれて焼ける様子を覗く。
甘くていい匂いがして僅かに気持ちも安らいだ。
一段落すると小春は晩ご飯を作り始めた。
なんか柳さんみたいになりたいとかって、言ってた。
柳くんすごいもんね。
部活をしてるのに、お母さんが忙しいから家事もしてるし。
時計を見るとそろそろ七時になりそうだった。
もう家に帰ったかな、柳くん。
会いたいな……。
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