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仲間? 《剣介》
次の日。
祝日だが俺は部活で午前中から学校にきていた。
練習を終え部室の鍵を返しに行く途中、桜井と一さんがいるのを見つけた。
「あ、柳じゃん。やっほー」
俺に気付いた桜井が手を降り声を掛けてくる。
「よっ、何してんだ? 一さんも」
「俺は軽音部に邪魔してきた。ほら薫いるじゃん、あいつ軽音だからさー」
「あぁ、梅田か」
桜井は仲のいい梅田薫(うめだ かおる)といたようだった。
「俺は勉強教えてもらいに」
「さすが受験生ですね」
「もう二ヶ月もないし、やれることやらないとな。それに、早く受かって時間作りたい」
「あー、あいつとの時間を?」
桜井がにやけて一さんを肘でつく。
接点のなさそうな二人だが、仲が良さそうで不思議だった。
「茶化すなよ、桜井」
「松谷さんとこはラブラブで羨ましい限りですねぇ」
「え、一さん彼女いたんすか?」
「彼女ではないけど、まぁ。そんな感じ」
「そういや、柳はどうなったの? 進展あったー?」
「いや、別に。その……無きにしも非ず」
昨日の電話を思い出して顔がにやけそうになる。
めちゃくちゃ進展あったけど、一さんもいるし、改めて言うのは気恥ずかしい。
だが顔に出てしまったからか、桜井がへぇと笑う。
「なに、付き合っちゃった? お? 図星?」
「うるせぇ! で、一さんの相手ってどんな人なんです?」
顔があちぃ。
一さんに話を振ると、こちらは困ったようにはにかむ。
「んー、可愛いし頼りになるよ」
「同学年の人っすか?」
「や、後輩。今、一年生」
へぇと相槌をうちながら、松谷さんが背を向けている方からジャージ姿の生徒がそろそろと走ってくるのが見えた。
前髪をあげていて眼鏡をしていて、どこかで見たことがあった。
青のジャージだから一年か。
「俺と秋良の幼なじみだから、それ繋がりで松谷さんとも知り合ったんだよねー」
桜井達が話すのにうなずきながら頭では思い出せそうで出せない名前を考えていた。
確か、早苗に教えてもらったよな。
朝、歩いてて一さんに会ってそれからやってきた奴。
か、か……かしま、だったか?
なんとなく名前を思い出したのと同時に、そいつは一さんに後ろから抱きついた。
「っ! ……なんだ、樺島か。びっくりした」
「ドッキリ大成功! あれ、りゅうもいたの?」
「わー、酷い。仮にも幼なじみなのにさぁ。盲目とはこの事だねぇ」
一年生で桜井の幼なじみ。
こないだもやけに一さんと仲良さげだった樺島。
……まさか、な?
「松谷さんなんでいるのー? 会えて、嬉しいっ」
「勉強教えて貰いにきた。樺島は部活?」
「そうそう、家だと絵の具足りなくて。って、あれ? 柔道部の……」
完全にいちゃついているなと、察した。
嬉しそうに一さんの手を握って話す樺島と目があった。
途端に顔が青ざめて、一さんから離れる。
「ふふ、柳も仲間だから平気だよね?」
すると桜井がにこにこと俺を見てくる。
こいつほんと、容赦なくばらしやがるな……。
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