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仲間 《剣介》

「まぁ……」 否定する訳にもいかず頷く。 「あ、もしかして早苗さんとですか?」 樺島が首を傾げる。 「あぁ、まぁな……」 「えらく仲いいと思ったら、そういうことだったのか」 一さんも納得したように頷く。 親しくしてる先輩に知られるのは、正直気まずかった。 「いやぁ、仲間が多くて嬉しいねぇ」 呑気に笑う桜井は背中をたたいてくる。 「気を使わなくていいのは悪くないかもな」 一さんはそう言いながら樺島の手をとる。 ほんとに付き合ってんだなぁ。 全然そういう人には見えなかったから意外だった。 けど、男同士ってことを受け入れてくれる人がいるのは悪くないよな。 「こいつ、柳剣介。俺の後輩なのは知ってるか」 「うんっ。松谷さんの次にいい身体の、あ、いやっ! 樺島江です、どうも!」 「いい身体……?」 「細マッチョとか好きなんだよ樺島」 一さんはなんでもなさそうに笑っているが、どう反応していいかわからなかった。 それなりに鍛えているし、褒められるのは嬉しいが……。 樺島も気まずそうにしていた。 「まぁ、よろしく……?」 「……よろしく、です!」 一応挨拶をすると樺島もホッとしたように笑った。 「で、桜井は仲直りできそうか?」 「えっ、りゅう達ケンカしてんの!?」 「実はねー。謝ってはいるんだけど、どうもね」 樺島と俺の顔合わせが終わると、一さんが桜井に話題を振る。 ケンカなんて桜井と林宮の熱愛っぷりっからすると意外だった。 いやけど、林宮はかなりつんけんしてるしありえなくはないか。 「原因はどっちなのさ?」 「どっちっていうか、んー、俺なのかなぁ」 「曖昧だな」 「うん、どうしたものかなぁ。っと、そろそろ行かないと、バイト遅刻する」 そろそろ昼をまわった頃だろうか。 俺も道草食ってないで、早々に鍵を返しにいかないとな。 「何かあれば相談してくれ」 「ありがと、松谷さん。すげぇアニキ出来た気分。あ、そだ、柳!」 「なんだ?」 「お菓子何が好き?」 「あ? なんでも食えるけど……」 「おっけー! じゃあね~」 呑気に笑って桜井が一足先に外へ出ていった。 お菓子がどうしたんだろう? 「樺島は、午後も部活か?」 「うんー。もうちょっとやってから帰る」 「そっか、頑張れよ」 「松谷さんもね! じゃあ」 去ろうとする樺島の手を一さんがつかむ。 立ち去るタイミング、完全に逃した……。 「もぅ、剣介さんいるよ?」 「……樺島」 「はいはい。お疲れ様」 樺島は照れながらも一さんを抱きしめる。 なんだか一さんが甘えているような構図。 ぽんぽんと頭を撫でて、肩越しに目が合うと樺島は恥ずかしそうにはにかむ。 「じゃあ、俺はこれで……」 見ていられなくてそう言い残して早足で事務室に向う。 一さんも男と付き合ってんのは意外だったけれど、とても幸せそうだった。 仲間。 少しは心強い、かもな。

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