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11月24日-7 《剣介》
部活を終えて、部室に戻る。
今日も汗だくだった。
タオルで拭きつつエナメルバッグを開くと、見慣れないものが入っていた。
生肉のような印刷のされたタオル。
取り出してみる。
なんだろう、新手のいじめか?
「ほらお前、困ってんじゃんどうすんだよ!」
「いや、だって!」
「謝ってこい馬鹿!」
後輩達が騒いでいて、そちらを向くとその中のひとり柿田優気(かきた ゆうき)が背を押されて目の前にやってきた。
「押忍! その、あの……誕生日だって聴いたから」
「あ、これプレゼントなのか?」
「そ、そのつもりっす! 肉が好きだと風の噂で聞いたので!」
確かに肉は好きだが、こういうことじゃないだろ……。
内心突っ込みつつどう反応したらいいか困った。
「まぁ、ありがと……?」
「はい! ぜひ明日から使ってください! 誕生日おめでとうございます!」
「お、おう」
柿田はほっとした表情で仲間の元へ戻っていく。
手の中のタオルを見る。
いい具合に霜降りの生肉だ。
貰ったことは純粋に嬉しいがなかなかに使いづらいタオルだ……。
誰が嬉しくて生肉で身体を拭くだろうか。
「これは俺から。早苗さんと食べて早く仲直りしろよ」
同学年の奴らからも菓子やらなんやら貰った。
入部当初から仲のいい杉下護(すぎした まもる)は、いつも来ていた早苗が来てないことも気にしてくれてるらしい。
なんだかんだでこんなに祝われるのは初めてかもしれない。
早苗ともう少しいたかったという気持ちは残るけど。
それでも悪くない誕生日だと思えた。
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