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11月24日-8 《剣介》

暗くなった夜道を歩き家についた。 「おめでとー!!」 ドアを開けた瞬間、そんな声とともにクラッカーが鳴り、紙テープやらが降り掛かってくる。 咄嗟に閉じた目を開けると碧と隼介がいた。 そうか、最近こそこそしてたのはこれだったのか。 手を引かれて居間に向うと今度はタスキをつけられる。 「おい、これはいいだろ」 「いいのいいのちゃんとつけて!」 隼介が「俺が主役」なんて書かれたタスキを無理やりつけてくる。 居間はHAPPY BIRTHDAYという文字なんかで飾り付けられていた。 この歳でこんなのを家族にされると思っていなかった。 なんつーか、こそばゆい。 「ったく」 「はい、これもねっ」 おまけにここにいるはずのない聞き慣れた声がした。 「え、おま」 「柳くんさっきぶりだね。これもつけて」 にこにこ笑ってパーティー帽を被せてくる早苗。 なんで俺の家に早苗がいるんだろう。 まっすぐ家に帰ったと思ったのに、わざわざこの為に俺の家に来てたのだろうか? こんなに祝われてそろそろ死ぬんじゃなかろうかと若干不安にもなるくらいだ。 「おめでとう剣介、ご飯食べよー」 テーブルの上には俺の好物ばかり並んでいた。 お袋が朝から作ってたのはこれだろうか。 わざわざこんなに作らなくてもと思いながらも嬉しかった。 カレーのいい香りもしていて、いつかの思い出が浮かんでくる。 野菜は大きめに切って、じっくり煮込む。 親父と一緒にカレーを作った思い出。 お袋に文句を言いわれながらも親父の隣で手伝うのが楽しかった。 「はーい、大盛りだよー」 皿いっぱいに盛られたカレーはごろっとした人参やじゃがいもが入っている。 俺らが小さかった頃は大きすぎるってごねてたのに、いつの間にかお袋もこのカレーを作るようになっていた。 「美味しそうだね?」 「そうだな」 隣りに早苗が座ってるのがへんな感じ。 こうして早苗と食べていることも、次にカレーを食べるときに思い出したりすんのかな。 「いただきます!」 みんなで手を合わせて食べ始めた。 部活終わりなのもあって一層美味しく感じた。 カレーもうまかったが、ローストビーフ最高だ。 肉ってだけでテンション上がる。 「あー、兄ちゃん食べ過ぎ!」 「俺の誕生日だからいんだよ」 「こういうのは早い者勝ちでしょ」 「あぁ!」 「おい隼、取り過ぎだろ!」 「んー、うま」 食べ盛りの碧と隼介もいるから味わってる暇はなさそうだ。 それに比べ早苗はのんびりと食べてる。 「ちょっとあんたたち、早苗くんの分無くなるでしょ」 「いや、僕は別に」 「こいつ肉そんな好きじゃねぇからな」 「あら、そうなの?」 「けど美味しいからもう一切れ食べようかなぁ」 「珍しいな」 「柳くんは野菜もちゃんと食べてよね」 「食ってるっつーの」 家族だけでも楽しいけれど、こうして早苗がいるのはもっといいな。 隣で好きな人の笑顔が見られるのは幸せだ。

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