88 / 127

11月24日-11 《剣介》

早苗の家についた。 楽しかった分、別れるのが名残惜しい。 「ゆっくり休めよ」 「剣介も、風邪ひかないようにね」 照れながらも名前で呼んでくれるのがたまらない。 わしゃわしゃと頭を撫でると、ぼさぼさになっちゃうよと早苗が言う。 しょうがないから髪を撫で付けて直してやっていると、玄関のドアが開き小春が出てきた。 「こんばんは、柳さん」 「おう、こんばんは」 「今日誕生日なんですよね?」 「そう、だけど……?」 「これプレゼントです」 近くにやってきた小春はそう言って綺麗に包装された小さな包を渡してくる。 また意外な人物からの贈り物だ。 「中身は、タオルですよ。部活してるって聞いたから」 「そっか。わざわざありがとな」 「あ、深い意味は無いですからね。慰めて貰ったしケーキのお礼です」 あれから、少しは元気になっただろうか。 なっていたらいいけれど。 「じゃあ、お兄ちゃんのことこれからもよろしくお願いしますね」 そう言って微笑みを浮かべると小春が一足先に家へ戻っていく。 そういえば、小春には早苗との関係バレてるっぽいんだっけ。 だとすると、なんとも意味深だ。 「小春ってばいつの間に用意してたんだろう?」 兄の方はだいぶぼんやりしているが、妹の方は油断ならないな。 「じゃあ、帰るわ」 「うんっ。気をつけてね……その、剣介」 「おう。おやすみ早苗」 「おやすみなさい」 にこりと微笑む早苗の頭を撫でて歩き出す。 離れ難くて振り返ると早苗が手を振ってくれた。 俺も振り返して家へ向う。 身体は冷えてしまっていたが、心はやけに暖かかった。

ともだちにシェアしよう!