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喧嘩2 《涼香》

してもらうだけというのは、どうも落ち着かない。 龍太郎はいつも俺を気遣って尽くしてくる。 あれでも一応長男で妹もいるから面倒見の良い方ではあるのだろう。 けれど、落ち着かないんだ。 仮にも恋人なわけだし俺だってなにかしら、してやりたい。 ドーナツの新作が美味しそうだとか呟いていたから買ってやろう。 もっと気の利いたことをしてあげられたらいいのだが、こうして人のためにと考えるのは慣れない。 今までなにかしてやりたいと思える相手なんて居なかったから。 目的のドーナツ屋を目指して歩いていると向かい側から歩いてくる三人の男がこちらを見ているのに気づいた。 嫌な顔だ。 ニヤついて物色するような目線。 こういうことが時々ある。 いちいち気にはしないが、一人でいることを不安に思った。 できるだけ気にしてないように横を通り過ぎようとした。 「ねぇねぇ、ひとり~?」 だが横を通ると後ろからその三人組が俺を囲むようにしてついてくる。 声をかけられても気づかないふりをして足を速めた。 すると一人の男に手を掴まれ引き止められた。 「ちょっと無視しないでよ。お話するだけじゃん?」 「お前らと話すことなんて無い」 土曜だと言うのに周囲に人も見当たらない。 ついてない。 どうしようとさらに不安になる。 ガタイのいい男三人に絡まれては力ではどうにもならない。 声も震えそうになるが、きっぱりとそう返した。 「気が強い子好みなんだよねぇ」 「つーか、間近でみてもすっげぇ綺麗な顔だな」 「っ、離せ……」 手を振りほどこうとしてみるもびくともしない。 声もどうしても小さくなってしまう。 そのまま手を引かれて向かっていく先はどこなのだろう。 何をされるのかと不安はどんどん募る。 途中すれ違う人にも目を逸らされた。 どうしよう。 逃げようにも力ずくで引っ張られ。 叫ぼうにも声がでない。 後悔しても遅い。 龍太郎と一緒にいればよかったと、後悔しても。

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