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喧嘩4 《涼香》

どうすることも出来ないままトイレに近づいていった。 「男としたことある?」 含み笑いを浮かべている男に耳元でそう聞かれる。 睨みつけるとその男はにたっと気味悪く笑う。 何をしようとしてるのかわかると寒気がした。 隙をみて逃げられるだろうか。 「怖がってる顔そそるわぁ」 別の男もそう言って顔を近づけてくる。 煙草と香水の混じった匂い。 吐き気がする。 「涼香ちゃん!」 その時、龍太郎の声がした。 しかもえらく大きな声。 「手離して、でないと通報するよ!」 龍太郎の声で店の人が顔を出して、こちらに注目が集まる。 男達は舌打ちをして逃げていった。 流石に人もいるこの場では不利なことはわかったのだろう。 すぐに龍太郎が近くに来て俺を抱きしめた。 「何かされた? 大丈夫?」 心配そうな声。 苦しそうな顔。 温もりも匂いも安心する。 龍太郎の胸の中で頷くが、まだ声はだせなかった。 近くに居た店員に声をかけられたが、よく覚えていない。 龍太郎に連れられて彼の家へ戻った。

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