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喧嘩5 《涼香》
「もうひとりにしないから、これからは」
龍太郎は何時になく真剣な面持ちで言う。
いつも笑ってばかりいるやつだから、事の重大さが身にしみた。
「別に、一人で……平気だ」
この期に及んでも素直になれない自分が居た。
龍太郎がこなければ今頃どうなっていたかと考えるだけでぞっとするが、だからといって甘えるのも自分が許さない。
誰かに頼るなんて選択は、まだまだ慣れない。
「平気じゃないでしょ? あのまま俺が来なかったら襲われてたよ?」
「わかってる。けど、こんなことそうそうないだろ……」
「わかってない。涼香ちゃんのことそういう目で見てる人いっぱいいるんだよ? 文化祭の時だって痴漢にあったでしょ?」
「あれは、……女装、してたからで」
7月にあった文化祭。
うちのクラスではメイド喫茶なんてものをやって、それでメイドの格好をさせられた。
その格好のまま龍太郎と軽音のライブを聴きに行った時、群がる人に紛れて知らない男に痴漢まがいのことをされたのは記憶に残っている。
それでもそれは、そういう格好をしていたからだ。
「してなくたって、涼香ちゃんは可愛いんだよ?」
やけに苦しそうで辛そうな顔。
あぁこの顔、あの時も見た。
声もやけに真剣で切迫している。
「次こそ本当に危ないかもしれない。知らない人に無理やりされるの嫌でしょ? 傍に居なきゃ助けられないんだよ」
その通りだとわかってはいる。
俺は非力で今日だって、文化祭でだって龍太郎に助けられた。
「俺が守るから」
結局、いつもされてばかり。
龍太郎には迷惑をかけてばかりだ。
今日も、もしかしたら龍太郎に害が及ぶかもしれなかった。
あの男たちがやり返したりしてこないとも言えない。
店員とのやりとりも俺は混乱してて龍太郎に任せてしまった。
そもそも俺が、大声でもだせていればこんなことにならなかったかもしれない。
龍太郎は優しく微笑んでくれる。
その優しさに甘えるだけでいいわけがない。
俺は、守られるだけは、嫌なんだ。
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