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桜井家 《涼香》
駅から歩いて十数分、小さな古書店の裏が龍太郎の家だ。
「ただいまー」
「お邪魔します」
龍太郎と連れ立って家に入ると龍太郎の妹の茉子(まこ)がリビングから顔をだした。
「あ、涼香さんいらっしゃい!」
「ちょっとー、お兄ちゃんにはなんもなし?」
「もう、めんどくさいなぁ。それよりモモコちゃんのCD返してよ」
「はいはい、あとで持ってく」
「そう言ってすーぐ忘れるんだから。ねぇ? 涼香さん」
「そうだな、三歩歩いたら忘れる」
「もー、涼香ちゃんまで。俺は鳥じゃないっての」
ここに来るのももう何度目かわからない程だ。
茉子は龍太郎に似てかよく笑う子。
兄の彼氏である俺のことも受け入れてくれている。
気持ち悪がったりしないし、変だ。
茉子だけでなく、龍太郎の両親もそう。
「涼香くんいらっしゃーい、外寒かったでしょう」
「そんなとこで立ち話してないでご飯にしよう、涼香くんも座って」
龍太郎も彼の家族もみんないい人ばっかりだ。
息子や兄の恋人が男でも嫌な顔をしない、変だけどいい人だ。
家だと一人でいることが普通で、食事も一人の事が多い。
父は仕事が忙しく家に寄り付かない人で、母は、何年も前に家を出ていった。
そんな家庭にいるからか、この家はあたたかくてむずがゆい。
団欒の中に入った気になれて、寂しさを忘れられる。
龍太郎の傍も龍太郎の家もどうしてこんなに落ち着くんだろう。
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