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わかってないね 《涼香》

食後は龍太郎の部屋で二人。 俺の忘れ物なんかも置いてあって、随分過ごし慣れてしまったなと思う。 ベッドに腰掛け、龍太郎が制服をハンガーにかけている姿を眺める。 なんとなく電車の中でのことを思い出した。 龍太郎はへらへらいつも通り笑っているけど、怖かっただろうと、思う。 知らない人にいきなり触られたわけだし。 龍太郎に勝手に触ったことが、腹立たしい。 ……いや、別に束縛したいとかじゃないけど。 首を振っていると龍太郎がくすくす笑って隣に座った。 「どうしたのー?」 「……なんでもない」 「そう?」 覗き込んでくる龍太郎と視線が交わる。 「……それより、その、大丈夫か?」 「ん? あぁ、へーきへーき」 「ほんとに?」 「うん。……んー、ほんとは、ちょっとだけ気持ち悪いかな」 微笑んで肩をすくめる龍太郎。 いつもより弱々しい笑い方だ。 少しでも安心させられたらいいなと、ぎゅっと抱きしめる。 「ありがとー、涼香ちゃん」 龍太郎は首筋に顔を埋めて抱きついてくる。 そんな彼の背中を撫でてやった。 守られるだけじゃなく守れたらいいな、なんて。 自分の身すら守れないやつが言えたことじゃないんだろうけれど。 それでも少しくらい龍太郎からもらったものを返したい。 「やっぱり優しいね、涼香ちゃんは」 「お前のほうが優しいだろ」 俺は素直になれないし、龍太郎のほうがずっとずっと優しいに決まってる。 「でも、俺泣かせちゃった」 龍太郎はそう言うと同時に、ベッドに押し倒してきた。 長めの髪の毛が頬をくすぐる。 龍太郎と目があって、近い距離に一気に顔が熱くなった。 こういうときに限って真剣な目で見ないで欲しい。 ゆっくりと顔を近づけられ、おでこ同士がくっついた。 目をそらしたいのにそらせなくて、ただ息を詰めて龍太郎を見た。 「目、ちょっと赤いね」 自分のことを心配すればいいのに。 またこうして俺を気にかける。 「ごめんね、泣かせて」 しゅんとした表情。 そんな顔しないでほしい。 俺はただ、自分が情けなくて泣いただけなんだから。 勝手に距離を置いて寂しくなってしまっただけなんだから。 「龍太郎のせいじゃ、ない」 どうしてこんなに、俺のことばっかりなんだろう。 自分が酷い目にあっても笑ってるのに。 俺が泣くと、こんな悲しそうな顔して……。 胸が締め付けられる。 嬉しくて苦しい。 それでまた、目頭が熱くなってしまった。 涙が滲んできて耐えられず目をそらす。 「あれ、泣かないで……」 するとぱっと顔が離れてまた、龍太郎が心配そうな顔をしているのがわかった。 「どうしたの? ごめんね」 「お前が、俺の心配ばっかりするから……」 「重い、かな? こう心配し過ぎでさ」 「ううん、違くて……嬉しいけど。心配されてばっかだと、面倒になっていつか……嫌われるんじゃないかって、ちょっと不安になる」 心配してもらってる分も、優しくしてもらってる分も返せてないと思う。 何も出来ない俺を嫌いなったり嫌になったりしないだろうかと、どうしても不安になる。 甘やかされ過ぎて離れられなくなりそうという不安も、多少。 目尻の涙を指で払う。 なんにしても今日は泣きやすい日なのかもしれない。 龍太郎を見ると、困ったような表情がなぜかムッとしたものに変わった。 「涼香ちゃん、俺がどれだけ涼香ちゃんのことが好きかわかってないね」 不満そうな声が聞こえたかと思うと唇に柔らかいものがあたる。 間近に龍太郎の顔があり、キスされてるんだとわかった。

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