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遠慮 《龍太郎》

お風呂から上がって、部屋に戻ってきた。 エッチもしたし、のんびり湯船に浸かってたせいか涼香ちゃんは、もう布団に入ったら寝ちゃいそうな感じだ。 「お茶とってくるけど、飲む?」 「ん……ああ。うん、飲む」 リラックスしてるのかなんなのか、いつもは見せないような笑顔にどきっとさせられる。 今までも時々はあったけど、今日は特にだ。 なんだろうな。 より心を開いてくれた、みたいな。 なんにせよ嬉しいことに変わりはない。 ただ可愛すぎてもう一回したくなってきてしまう。 まだまだ愛し足りない、なんて。 そんな邪な気持ちを抱きつつ一階のキッチンに向かう。 「ちょっとりゅう」 「なにー、母さん」 「涼香くんがネコなの?」 ちょうどそこにいた母さんが唐突に聞いてくる。 遠慮の“え”の字も遠回しの“と”の字もないなー。 「うん、まぁ」 「そうなの、よかった。りゅうの喘ぎ声だったらどうしようかと思ってさ」 「……聞こえてた?」 「そりゃほら、隣トイレだし? なんなら洗面台で手洗ったし?」 「聞こえてたんなら入んないでよ」 「えー、いいじゃない。減るもんじゃないし」 真顔で言ってくるあたり末期だと思う、俺の母親だけど。 公に出来るのは嬉しいけど、こればっかりは何だかなー。 呆れつつ冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注いでいく。 「龍太郎」 「なに、父さん」 「探してた本、見つかったよ」 探してた本、というと涼香ちゃんへのプレゼントに用意しようとしてる本のことだ。 涼香ちゃんは本好きで読書家。 よく図書室にいる涼香ちゃんに押し掛けたな、なんて思い出す。 うちが古本屋をやってるのも都合がよかった。 こうして父さんに本を探して貰えるから。 「涼香くんに渡してきていいかな?」 「や、それ誕生日プレゼントのつもりだから、まだ早いし。なんで父さんが渡すの」 「いや、ちょっとお話したいなって」 きらきらした目の父さん。 本好き同士話が合うらしく、何気に仲いいんだよなぁ。 こんなことなら、俺ももっと読書しとくんだと後悔してる。 「ほんと涼香くん好きねぇ」 「そんな棘のある言い方しなくてもいいだろ、ママ」 「ちょっとは空気読んだらどうなの、パパ」 「少しくらいならいいだろ、なにも長々と話そうって訳じゃないんだ」 「遠慮って言葉、覚えたら?」 母さんこそ遠慮の“え”くらい覚えてくれ。 心の中で突っ込みつつ、冷蔵庫にお茶を戻す。 「涼香ちゃん眠そうだったから、また今度ね。じゃ、おやすみ~」 小言を言い合いつつ仲良しの両親を置いて、俺はコップをもって二階に急いだ。

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