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寝よう 《龍太郎》

「ただいまー……って、びっくりしたぁ」 開けたドアの前に涼香ちゃんは座っていた。 まるで猫みたい。 「おかえり」 体育座りして、にこりと笑う涼香ちゃん。 乾かしたての髪の毛はふわふわしてるし、なにより柔らかい微笑みが度を超して可愛い。 なんだろう、なんだろう。 戸惑いつつもお茶をテーブルに置く。 すると涼香ちゃんが後ろから抱きついてきた。 「す、涼香ちゃん?」 「うん」 背中に顔をすりすりしてくるし、声までとろんとしてる気がする。 猫って、何となくそんな気がして言ったけれど、思いのほか的を得ていたのかもしれない。 ドアの前で待ったり顔を擦り付けたりって、猫じゃん。 「お、お茶飲もう?」 「……うん」 意外と素直に身体から離れると、涼香ちゃんはテーブルの傍に座った。 俺も隣に腰を下ろしてお茶を飲む。 兎に角落ち着かないと。 そう自分に言い聞かせていると、こてんと肩に体重がかかった。 見ると、涼香ちゃんの頭が肩にあって、寝かけてるんだとわかった。 そっかそっか、やっぱ眠いのもあるのかな? 眠いから甘えてくるのか……。 甘えん坊な涼香ちゃんを堪能したいし、このまま寝ちゃった方がいい気もする……。 堪能するのはそりゃもうしたいし、本能的にそっちを選びたい、選ぶ意外の選択肢を除外したい。 けど待てよ。 ここで寝かせないで堪能するってことは、明日学校で寝ぼける可能性が高くなり、つまり他の人にもこんなゆるゆるな涼香ちゃんを見られかねない……。 「よし! 涼香ちゃん、寝よう!」 「……へ?」 「ほら、布団に! 入って!」 「……?」 「首傾げないで可愛すぎる、もうやだなんで明日学校あるの……」 不思議そうに俺をみる涼香ちゃん。 可愛すぎる。 目に入れても全然痛くないよ。 旅には絶対出したくないレベルに可愛い。 「……そうだ、学校休もっか?」 「それはだめだろ」 ぼんやりしててもそこの判断力はあるらしい。 仕方ない、寝るしかないな……。 ひとつため息をつき、お茶を飲み干す。 諦めてベッドを整え、涼香ちゃんを手招きする。 電気を消して、涼香ちゃんの横に入るとぎゅっと抱きしめた。 「涼香ちゃん、おやすみのちゅーは?」 「ちゅー……」 布団に入ったからか本格的に眠そうな涼香ちゃん。 俺の言葉を繰り返すように言うと、ちゅっとキスしてきて、照れて微笑んだ。 こんな風にもっと甘えて欲しい、寝ぼけてない時も。 まだまだ不安なのかもしれないけど、それを拭えるくらい涼香ちゃんを大好きな自信もあるんだよ。 そっとおでこにキスをして、涼香ちゃんを抱き寄せる。 寝息を聞きながら、幸せだなって思っていたら、俺もいつの間にか眠っていた。

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