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譲れない 《龍太郎》

次の日。 「体育だ体育~」 3限が終わり次は体育。 薫はめっちゃ嬉しそうに着替え始める。 「あ、そういやさ。仲直りしたのん?」 「したよ。心配かけたねー」 「そっかそっか、よかったな!」 にっこり笑う薫。 おバカな所もあるけど薫はいいやつだ。 俺と涼香ちゃんのことも受け入れてくれてるし。 「お前んとこはケンカしないよな」 「たまーにするぞ? 杏ってああ見えてガンコなとこあるしさ」 薫の彼女の藤川杏(ふじかわ あんず)。 二人は中学からの仲良しカップルらしい。 因みに彼女は俺らと同じクラスで、秋良とも仲がいい。 「ま、だいたいすぐにいつも通りになるし。ケンカってケンカはないかもな」 「そっかぁ、平和ねぇ」 「それを言うなら龍太郎たちだってさ、ラブラブでうらやましいわ」 「でしょ?」 「と、うわさをすれば、だな」 薫の視線を追うと教室に入ってくる涼香ちゃん。 と吉良。 「涼香ちゃんどうしたのー?」 「ジャージ、貸して」 「あぁ、そっか」 昨日急にお泊りしたから、ジャージ持ってないのか。 朝に気付くべきだったな。 自分の持ってきたのにそこまで考えが向かなかった。 「僕が貸すって言ってるのに」 「いいって。龍太郎のせいだし、な?」 そう言うとこっちを見てにこっと笑う涼香ちゃん。 吉良よりも俺を選んでくれてるの、嬉しいなって思う。 吉良って単純にかっこいいし、優しい。 特に、涼香ちゃんには。 涼香ちゃんと同じクラスで、中学も同じ。 冗談だって涼香ちゃんは思ってるみたいだけど、匂わせる発言も多い。 そんなわけで、吉良には一種対抗意識のようなものがあるわけで。 「涼香ちゃんには俺が貸すよ」 そう言ってにこりと吉良に向かって笑う。 少しはむっとでもするかなと思ったのに吉良は意味深に微笑んだ。 「そういえば、涼香のここにあるのって龍太郎さんがつけたのかな?」 カーディガンを脱いでいた涼香ちゃんの首元に手を添える吉良。 ボタンが二つほど外れたシャツの隙間から、昨日つけたキスマークが覗いていた。 「うん、そうだけど」 後ろから抱きつくみたいな格好にこっちがむっとしてしまう。 「喧嘩してるって言うから心配していたのに、すぐこれだもんなぁ」 「邪魔だ、はなせ」 吉良の手を除けてシャツを脱いでいく涼香ちゃん。 正直吉良には関係ないのになって思う。 嫉妬してんならそういえばいいのになって。 「吉良ってそういうとこあるよなー」 「……」 「おい無視すんなし!」 「ばかおるはお黙り」 「バカって言うなばーか!」 ピリピリした空気を薫が破いていく。 吉良の小言から開放されたかなと思ったのも束の間。 俺の貸したTシャツが大きかったのか、前かがみになった拍子に捲れていき、涼香ちゃんの背中が露わになった。 色の白い肌に点々といくつもの赤い痕。 思いっきりそれを見た吉良の目の色が変わる。 「龍太郎さん」 「な、なんだよ」 「ひとつふたつなら許そうと思ってたけど……これは我慢ならないな」 「き、吉良には関係ないじゃん」 不穏な空気を漂わせる笑顔に気後れしてしまう。 「涼香が傷つくのは許せないよ。龍太郎さんってば犬みたいに加減を知らなそうだから」 「なっ……。す、涼香ちゃんは嫌がってないし!」 「そうだとしても、なぁ。そうだ、じゃあ勝負しましょう」 「勝負って、何すんの」 「今日の体育、バドだったはず。試合して僕が勝ったら、もうそういうこと、しないでください」 「なんで吉良の言いなりにならなきゃっ」 「あぁ、僕に勝てる自信、ないのかな?」 挑発だってわかってても、腹が立ってくる。 「龍太郎、こいつの言うことなんて無視していいから」 「涼香ちゃん、大丈夫。受けて立つよ吉良。俺が勝ったら、俺らのことにもう口出さないでよ」 「うん、勿論」 不敵に微笑む吉良。 薫は面白がって、涼香ちゃんは呆れたみたいにため息をつく。 悔しいけど顔だって頭の良さだって吉良には負けてる。 でも、ここは譲れない。 絶対勝つ!

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