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名前呼び 《剣介》
「早苗、いくぞー」
「はーい」
打ちやすいようにと高くシャトルを上げる。
早苗はあんまり運動は得意じゃない。
それでも一生懸命で、そこが可愛い。
落ちてくるシャトルに合わせてラケットを振った、つもりなんだろう。
けど、ちょっと振るのが早かったせいか空振り。
早苗が当たってない事に気づいたのと同時にその頭にシャトルが直撃した。
「いてっ」
頭を押さえて恥ずかしそうにはにかむ早苗。
あまりにもきれいに空振りするから、つい吹き出してしまった。
「もー、そんなに笑わないでよ」
「わりぃ、わりぃ」
「もう。今度はちゃんと打ち返すから!」
意気込んで早苗がサーブを打つ。
ネットの近くに落ちるシャトルをさっきより低めになるように打ち返す。
今度は打てるかと思ってたら、少し遠くに打ちすぎたからかバランスを崩し早苗は尻餅をついた。
「……ふっ」
「あー、また笑った」
「だって、そこで転ぶかよ」
顔を赤くして座り込んでる早苗の元に行き、手を差し出す。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない」
「なーにふてくされてんだよ」
「だって、笑うから」
「わりぃって、もう笑わねぇから」
「ほんと?」
「おう」
しゃがんで手を差し出すと、早苗がにこっと笑う。
「じゃあ、許す」
手を引いて立ち上がり、わしゃわしゃと早苗の頭を撫でた。
かわいい。
すっころんじゃうとこも拗ねちまうとこも全部。
「髪の毛ぼさぼさになっちゃうよ、剣介」
激しく撫ですぎたのか、早苗は唇を尖らせる。
そんな表情もまたいいなって思うのに加え、名前呼びだ。
今まで名字だったのに、名前で呼ぶようになった。
「剣介って」
「あ、うん。呼んでほしいのかなと……前、喜んでたし」
「なんか、慣れないな」
「慣れるまでいっぱい呼ぶね、剣介って」
髪を直しながら、早苗はほんのり頬を染めて微笑む。
嬉しくて、そっと頬に触れる。
今までなら、名前で呼ばれることもそうだけど、押しとどまってたことをしてもいいのって変な感じだ。
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