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もどかしさ 《剣介》
早苗のほっぺた、すべすべで柔らけぇ。
なんて、触れながら思う。
「手……」
「あ、痛かったか?」
柔道で指の皮が厚くなってるし、さわられ心地はよくなかっただろう。
しかし早苗は首を横に振る。
「そうじゃなくて、おっきいなって」
頬から離した指先を握ってくる。
「かっこいいなって思って」
ふわりと微笑む顔に胸がぎゅっとなった。
抱きしめたいと、思ってしまう。
もっと触れたい。
触れてほしい。
どこまでなら……早苗は平気だろうか。
「……あ、やんなきゃだよね」
俺が黙っていると、照れくさそうにして、早苗は足元に転がったままのシャトルを拾い上げた。
指が離れて、残る温もりに名残惜しさを覚える。
「そうだな」
ラケットを握り直し、相槌を打つ。
触れられないとしたって好きなことに変わりはないけど。
好きだから触れたくなる。
かといって、嫌がることはしたくない。
もどかしくて小さくため息をついた。
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