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王子様 《涼香》
龍太郎は馬鹿だ。
吉良の冗談に付き合わなくったっていいのに。
「えっとー、21点とったら勝ちだよね」
「そうだね。なんセットやる?」
「1セットでいいよ。吉良には悪いけど、バドミントン得意なんだよねぇ」
なんだかんだ楽しそうなのも理解できない。
負けたら、どうするつもりなんだろう。
龍太郎から借りたジャージの首もとのファスナーを上まで上げる。
さすがにこれなら隠れるだろう。
首につけられた痕も。
朝はぼーっとしてて忘れてた。
正直お風呂上がってからの記憶も曖昧だ。
だから背中のキスマークのことも、忘れていた。
そんなに沢山つけられてたんだろうか?
自分では見れないからわからないけれど、吉良があれほど喧嘩腰になるくらいだ。
見られたんだよな……。
今更ながら恥ずかしくなってきた。
そういうことしてるって言ってるようなもんだし。
「それを言うなら、僕だって中学ではバドミントンの王子様なんて呼ばれてたよ」
「テニスじゃないのね」
「なにそれかっけーじゃん! 俺も軽音部の王子様とか呼ばれてぇ」
吉良と龍太郎と薫の会話を聞き流しつつ、背中が見えないようにTシャツを中に押し込んでいく。
見られたのがこいつらだったからまだいい。
他の人に見られたら、終わりだ。
「それならもういるじゃん」
「お? なんだよ、俺も王子って呼ばれてたのかー!」
「薫じゃないから。ほら、吉良も軽音じゃん」
「そうだよ、薫。一緒にバンド組んでるのに、もう呆け始めてるの?」
「ボケはじめてないっつーの! つか、吉良ばっかずるいー。俺も王子って呼ばれたい」
「薫は王子っていうか……農民?」
「ふっ、確かに」
「はぁ? 農民って、そこまでしょぼくないだろ」
「縁の下の力持ち的な、ね」
「そうそう、いい意味で農民」
「うーん? そう? ならそれでいいや!」
さっきまで一触即発って感じだったのに龍太郎と吉良は顔を見合わせ笑っていた。
よくわからない奴らだ、まったく。
呆れていると龍太郎と目があった。
「涼香ちゃんの王子様は俺だよね?」
なんて、龍太郎は爽やかに微笑んで言う。
王子なんて柄でもないだろうに。
……それくらい俺にはもったいない人だとは思うけど。
認めるのは、恥ずかしい。
「……別に」
顔が熱くて、龍太郎から顔を逸らす。
それでも、嬉しそうに笑う声が耳に入る。
どうせ聞かなくたってわかってるんだ。
俺が龍太郎をどう思ってるかなんて……。
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