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せくはら 《涼香》

大げさに咳払いして吉良は切り出す。 「龍太郎さん、そろそろ始めようか」 「おう、やるか」 「じゃあ、俺は審判するねー!」 龍太郎はにやにやしながら俺の頭を撫でる。 勝ってくるね、って呟いて足早にコートに入っていった。 頑張るじゃなく勝ってくる、か。 そういう変な自信も嫌いじゃない。 龍太郎のサーブから始まった試合は、接戦だった。 力量は五分五分といったとこだろう。 打ち返す音が心地よく響いて、時折床に擦れて靴が鳴る。 座った床から、打つ瞬間に少し浮き上がる足の振動が伝わってくる。 「涼香っちー」 試合の様子を目で追っていると薫が声を掛けてきた。 「なに?」 「涼香っちもえっちなこととかすんだね」 突拍子もない発言で一時思考が止まる。 あぁ、あれか、キスマークを見たから……。 「いきなり、……なんだよ」 「だってさぁ、そういうイメージないし。してるんだとは思ってたけどさ、現実感なかったっていうか、ね?」 「俺も、男だし……」 「だよねぇ。おっぱいもないもんね~」 「おい、こら変態っ」 薫は抱きついてくると胸をぺたぺた触ってくる。 くすぐったいし振り解こうと抵抗するがなかなか離してくれない。 そうしてじゃれていると、かなりの速度でシャトルが飛んできて、薫の脳天に直撃した。 「いったぁ!」 「悪い、変態が視界に入ったから」 「だからって手加減してよぉ。たんこぶできそう……」 龍太郎に手を引かれ薫から離される。 そのまま強く抱きしめられた。 「涼香ちゃんに触るの、薫でもやだ」 こんな風に人前で抱きしめられるのは恥ずかしくて嫌なのに。 離れたくないなって思ってしまう。 嫉妬深くて、独占欲が強い。 龍太郎のそんなところも、好きだ。 執着してくれてることに安心する。

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